対物性愛

対物性愛とは

対物性愛（たいぶつせいあい、Object sexualityまたはobjectophilia）は、生物ではない物体に対して性的または恋愛的な魅力を抱くセクシュアリティやパラフィリアの一つです。この現象は「オブジェクト・セクシュアリティ」とも呼ばれ、特定の物に対して深い愛情を持つことが特徴的です。たとえば、電車、橋、車など、無生物に対して強い感情的な結びつきを感じる人々が存在します。

概要

「対物性愛」という用語は、エイヤ=リータ・エクレフ=ベルリナー=マウアー（Eija-Riitta Eklöf Berliner-Mauer）が造語したものです。2009年、エイミー・マーシュが行った調査に基づくと、約40人の対物性愛者からの回答から、誰もが特定の物に対し感情と自己概念が交わる側面を持つことが示唆されています。これはアメリカ心理学会による性的指向の概念と一致しているとされています。

精神医学での位置づけ

世界保健機関（WHO）の「国際統計分類（ICD）」では、以前は「性嗜好障害」の一部として物への性的興奮を示す「フェティシズム」が分類されていました。しかし、2019年には「ICD-11」が施行され、フェティシズムという用語は消え、「パラフィリア症群」という新たなカテゴリーに再編成されました。このパラフィリア症群は、持続的かつ強烈な非典型的な性的興奮パターンを持ち、その興奮が他者に対して同意を得ない場合や、著しい苦痛を伴ったり、重大なリスクを生じさせることがある場合に該当します。したがって、対物性愛が必ずしもこのパラフィリア症群に分類されるわけではありません。

研究と社会的視点

エイミー・マーシュの調査によると、対物性愛者は特定の物に対して深い愛情や感情を抱くことが明らかにされています。個々の対物性愛者によって、物との関係はさまざまです。中には物とのコミュニケーションを感じる者もいれば、まったく意思疎通を感じない者もいます。また、過去に人間との関係を経験した対物性愛者もいれば、人間には魅力を感じないという人もいます。このセクシュアリティは、自閉症や共感覚と関連があるともされています。

社会言語学者のハイコ・モッチェンバッハーは、対物性愛の社会的周縁化を説明するために、「人間性愛規範（humanonormativity）」という概念を提案しています。これは「人間との性的関係は無生物との関係よりも望ましい、あるいは自然だ」という信念を指し、人間中心の性的関係に優先順位を置く傾向を示しています。さらに、ジェニファー・テリーによれば、対物性愛の周縁化は異性愛規範とも結びついており、物への愛情を公言する女性は期待される性別の役割を逸脱して見られることがあります。

メディアによる紹介

対物性愛はメディアでも取り上げられ、多くの人々の関心を集めています。例えば、WIRED.jpではMacintoshを愛した男性が紹介されたり、2009年のテレビ番組『世界まる見え!テレビ特捜部』では、エッフェル塔と結婚した女性が取り上げられました。この女性は苗字をエッフェル塔と同じにしており、特異な愛の形を示しています。また、2011年放送の『探偵!ナイトスクープ』では、車に恋した対物性愛者も紹介されています。さらに、2020年に公開された映画『恋する遊園地』では遊園地のアトラクションとの恋愛が描かれています。

関連項目

「対物性愛」は、LGBTや対人性愛中心主義、性的嗜好、ピグマリオンコンプレックスといった多様なテーマとも関連があります。これらのテーマは、対物性愛者が感じる特異な愛の形を理解する手助けとなります。

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