専用計算機

専用計算機とは

専用計算機とは、特定の用途の計算に特化した計算機のことです。コンピュータ開発の初期段階では、特定の機能に特化した計算機が数多く開発されました。現代においても、汎用コンピュータとは異なり、特定の用途に特化することで高い計算能力を発揮する専用計算機が開発されています。

概要

一般的な事務処理や科学技術計算に用いられるノイマン型コンピュータは、プログラミングによって幅広い用途に対応できます。しかし、特定の計算能力を追求する上では、必ずしも価格対性能比が最適とは限りません。スーパーコンピュータは科学技術計算に特化した高性能コンピュータですが、汎用性を備えているため、特定の計算に最適化されているとは言えません。

現代における専用計算機は、汎用性を制限し、特定の計算用途に特化することで、価格対性能比を高めることを目的としています。これは、特定の計算処理を高速化し、電力効率を向上させるために不可欠なアプローチです。

歴史的に見ると、専用計算機の存在は決して新しいものではありません。デジタルコンピュータ以前のアナログ計算機はすべて専用計算機であり、暗号解読機Colossusもその一例です。19世紀に発明されたタビュレーティングマシン（パンチカードマシン）も、統計データの集計に特化した専用計算機と言えます。

隣接領域

専用計算機と関連する領域として、デジタルシグナルプロセッサ（DSP）や画像処理に特化したGPUがあります。これらは単独で業務に用いられるのではなく、他のコンピュータや機器に内蔵される形で使用されます。DSPは3Dグラフィックスのジオメトリ演算にも応用され（例：ナムコのSYSTEM21）、GPUは近年、汎用計算（GPGPU）分野で目覚ましい発展を遂げています。

FPGA（Field Programmable Gate Array）による再構成可能コンピューティングも、特定の機能を比較的容易に実現する手段です。FPGAは、暗号化や動画の圧縮・伸張、画像処理などの用途に用いられます。専用のASIC（特定用途向け集積回路）に比べると計算能力は劣りますが、汎用製品として供給されるため調達が容易です。報告によれば、マイクロプロセッサと比較して、電力当たりの性能は検索処理で約10倍、複雑な金融モデル解析では約25倍、FPGAの方が優れているとされています。

現代的な専用計算機の事例

本稿では、汎用的な機能を持つノイマン型コンピュータに対し、非ノイマン型コンピュータとして高い計算能力を追求した専用計算機の事例を紹介します。これらの事例は、ノイマン型のCray-1によってHPC（High-Performance Computing）分野が確立された後に登場しました。

DISP (Delft Ising System Processor)：1979年から1981年にかけて、デルフト工科大学のA.F. バッカーらによって開発されたイジングモデル専用の計算機です。
DMDP (Delft Molecular Dynamics Processor)：1982年に同じくデルフト工科大学のA.F. バッカーらによって開発された分子動力学シミュレーション専用の計算機です。1990年には後継機ATOMSが製作されました。
FASTRUN：アメリカのR.ファインらによって開発された専用計算機です。
m-TIS (mega-flippable model of Tokyo university Ising Spin machine)：イジングモデル専用の計算機で、約10万円で製作されました。性能はDISPと同程度であり、ホストコンピュータが計算全体を制御するという概念は、後のGRAPEに引き継がれました。
DREAM (Disk REsource Array Machine)：数値流体シミュレーション用の専用計算機です。
Digital Orrery：惑星の運行を再現する専用計算機で、マサチューセッツ工科大学のジェラルド・ジェイ・サスマンの研究グループによって開発されました。
GRAPE (Gravity Pipe)：多体問題専用の計算機で、1989年9月に最初のGRAPE-1が完成しました。
FX型デジタル分光相関器：東京天文台（現：国立天文台）の近田義広らによって開発された電波天文学用の専用解析計算機で、電波分光観測データの処理に活用されています。
QCDPAX：格子上の量子色力学を解くための専用計算機で、筑波大学の岩崎洋一とアンリツによって共同開発されました。
DEGIMA：長崎大学によって開発された多体問題計算機です。
Anton：D. E. Shaw Researchによって開発された、タンパク質などの生体高分子の分子動力学シミュレーションに特化した専用計算機です。演算装置としてASICを使用している点が特徴です。

まとめ

専用計算機は、特定の計算に特化することで、汎用コンピュータでは達成できない高性能を実現します。黎明期から現代に至るまで、様々な専用計算機が開発されており、科学技術計算やシミュレーションの分野で重要な役割を果たしています。

脚注

[1] Alder, Berni J, ed (2014年). Special purpose computers. Vol. 5. Academic Press. ISBN 9781483266985

[2] 杉本大一郎『手作りスーパーコンピュータへの挑戦 テラ・フロップス・マシンをめざして』講談社ブルーバックス、1993年2月20日。ISBN 9784061329560

[3] 杉本大一郎『専用計算機によるシミュレーション デスクトップ・スーパーコンピュータ入門』朝倉書店、1994年。ISBN 9784254120912

[4] 伊藤智義『スーパーコンピュータを20万円で創る』集英社新書、2007年。ISBN 9784087203950

関連項目

デジタルシグナルプロセッサ
GPGPU
Xeon Phi

もう一度検索