尊属殺重罰規定違憲判決

尊属殺重罰規定違憲判決

尊属殺重罰規定違憲判決（そんぞくさつじゅうばつきていいけんはんけつ）は、1973年4月4日に日本の最高裁判所によって下された重要な判決です。この判決は、刑法第200条に規定されていた尊属を殺害した場合の重罰について、憲法第14条に反するとしてその無効を宣言しました。この決定は、日本の法制度における初めての法令違憲判決として大きな意義を持ちます。

事件の背景

事件の発端は1968年、栃木県矢板市にて発生したもので、当時29歳の女性Aは、53歳の実父Bによる長年にわたる性的虐待に耐えかね、思わず父を殺害するに至りました。この事件は「栃木実父殺し事件」として知られています。女性Aは、父との間に5人の子供を持ち、逃げ出したいと考えながらも、家族の暴力や妹への危害を恐れて逃げられずにいました。

苦痛の続いた生活

14歳から受けた虐待に加え、父から結婚相手との関係を脅かされることで、女性Aはますます追い詰められていきました。ある日、実父は彼女を自宅に監禁し、再び性的虐待を強要しました。10日後、女性Aは父からの更なる脅迫を受け、生き残るためには父を殺すしかないと判断しました。枕元にあった腰紐を使い、父を絞殺しました。

重罰規定とその影響

刑法第200条は、尊属の殺害に対して普通殺人よりも重い罰を科す法令であり、その法定刑は死刑または無期懲役でした。このため、女性Aは執行猶予を得られない状況に置かれ、厳しい選択を強いられていました。過去にも尊属殺に関する合憲判決が続いていましたが、本事件では新たな視点が求められました。

裁判の経過

弁護人の大貫大八は、女性Aの状況を訴えるためにありとあらゆる方法を尽くしました。裁判は、多くの傍聴者の感情を揺さぶり、女性Aが体験した過酷な日々と心の苦悩が法廷で語られました。一審の宇都宮地方裁判所は刑法第200条を違憲とし、情状を考慮して無罪判決を下しました。しかし、二審の東京高等裁判所は法条を合憲とした上で実刑を宣告しました。

最終的に、最高裁判所は現行の法律を見直し、恣意的とも取れる過剰な重罰規定を違憲と判断しました。この判決により、女性Aには懲役2年6月、執行猶予3年が言い渡されました。

その後の影響

最高裁の判決後、法務省は直ちに刑法第200条の運用停止を通達し、これ以降の尊属殺事件については一般の殺人罪を適用することが決定されました。言い換えれば、この判決により尊属殺の法律は事実上死文化されました。1973年以降、尊属殺人に関する重罰は適用されず、1995年の改正では法令そのものが削除されました。

評価と議論

最高裁判所の判決は、法令違憲審査権の発動として評価されましたが、判決の背後には多様な意見が存在しました。合憲を主張していた裁判官たちからは批判の声が上がり、それに対して違憲を主張した裁判官たちは評価を受けました。このように、尊属殺の規定をめぐる法的論争は、単なる法解釈の枠を超え、社会の道徳観や人権意識にまで及ぶ複雑な問題であったといえます。最終的に、この事件は日本の法律制度に変革をもたらしました。

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