小人の冒険シリーズ

『小人の冒険シリーズ』（原題：The Borrowers）は、イギリスの著名な児童文学作家メアリー・ノートンが生み出した、心温まるファンタジー小説シリーズです。鉛筆ほどの小さな身体を持ち、人間の世界から日用品や食料を「借りて」ひっそりと暮らす小人たちの生活と冒険を描いています。1952年に第1作が発表されて以来、世界中の読者に愛され続け、1982年までに全5巻が刊行されました。

物語の世界と設定

物語の舞台となるのは、イギリスの田舎に佇む古びた民家です。その床下や壁の隙間といった片隅に、小人たちは隠れ住み、人間が気づかない間に必要なものを「借りて」生活しています。彼らは自分たちを養ってくれる存在として人間を認識していますが、同時にその巨大さや予測不能な行動に深い畏れを抱いています。この独特な「借り暮らし」こそが、シリーズの根幹をなす設定であり、物語の魅力の源泉となっています。

主人公は、好奇心旺盛な小人の少女アリエッティと、彼女の両親であるポッド、ホミリーの一家です。父のポッドは一家の主な「借り手」であり、母のホミリーは家族、特にアリエッティのことを常に気にかけています。

物語は、アリエッティが成長し、外の世界への強い関心を持つことから動き出します。父に連れられて初めて「借り」に出た際、彼女は人間の少年と出会ってしまいます。この運命的な出会いが、隠れ住んでいた小人の存在を人間に知られるきっかけとなり、アリエッティ一家は長年暮らした家を追われることになります。

新しい住処を求めて

安住の地を失ったアリエッティ一家は、新たな住処を求めて旅に出ます。彼らは時には危険な野外を進み、川を下り、あるいは思いがけない方法で空を移動するなど、様々な困難に立ち向かいながら冒険を繰り広げます。この旅の過程で、一家は他の小人たちや、様々な事情を抱えた人間たちと出会い、交流を深めていきます。中でも、野外での生活に長けた小人スピラーや、絵や文字に秀でたピーグリーンといった個性豊かな仲間たちとの出会いが、彼らの冒険を彩ります。

当初、シリーズは第4巻の刊行で完結したように見えましたが、それから21年もの歳月を経た1982年に第5巻が発表され、多くのファンを驚かせました。

作品の評価と影響

『小人の冒険シリーズ』は発表当時から高い評価を受け、1952年に刊行された第1作『床下の小人たち』は、その年にイギリスで最も優れた児童文学作品に贈られるカーネギー賞を受賞しました。さらに2007年には、過去70年間で最も重要な児童小説の一つにも選ばれており、その文学的な価値と影響力の大きさが認められています。

日本においては、1956年に岩波少年文庫より第1作の邦訳が出版されて以来、多くの読者に親しまれています。第1巻から第4巻までは林容吉が、第5巻は猪熊葉子が翻訳を手掛けました。第5巻のあとがきで猪熊葉子は、本作を『ロビンソン・クルーソー』と比較し、現代文明への過度な依存に対する警鐘を含んだ作品として読み解くことができる、と示唆しています。

シリーズ構成

本シリーズは、出版順に以下の5作から構成されています。

床下の小人たち (The Borrowers, 1952)
野に出た小人たち (The Borrowers Afield, 1955)
川をくだる小人たち (The Borrowers Afloat, 1959)
空をとぶ小人たち (The Borrowers Aloft, 1961)
* 小人たちの新しい家 (The Borrowers Avenged, 1982)

映像化作品

本シリーズは、その魅力的な世界観からたびたび映像化されています。主なものとして、1973年（アメリカ）、1992-1993年（イギリスBBC、日本でも放映）、1997年（アメリカ・イギリス合作映画）、そして2011年（イギリスBBCテレビ映画）にテレビシリーズや映画が製作されました。中でも日本では、スタジオジブリ制作によるアニメーション映画『借りぐらしのアリエッティ』（2010年）が有名ですが、これは舞台を日本に移すなど、原作を大胆に翻案した作品となっています。

『小人の冒険シリーズ』は、小さな存在が広大な世界で生き抜く知恵と勇気、そして家族の絆を描いた物語として、時代を超えて読み継がれる児童文学の傑作と言えるでしょう。

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