小俣蠖庵

小俣蠖庵（おまた かくあん）

小俣蠖庵（1765年 - 1837年）は、江戸時代中期に伊勢で活躍した篆刻家、書家、画家です。本名は藤原氏で、孟寛、孟奬と名乗り、字を子猛、名六と改めました。蠖庵の他に栗斎、眯翁などの号を用い、自ら修して符と称しました。

生涯

伊勢山田（現在の三重県伊勢市）に生まれ、代々伊勢神宮の神楽職を務める家柄でした。また、家業として味噌を商い、裕福な暮らしを送っていました。蠖庵は幼い頃から書画骨董に親しみ、名品に出会うと高額でも購入して蒐集し、その鑑識眼にも優れていました。

書画においては、画を石川侃斎に師事して山水図を得意とし、書は蘇軾、趙孟頫、董其昌などの大家に私淑し、古法帖などから独学しました。また、僧玉潾から明楽を学んでいます。

篆刻においては、芙蓉門の高弟である源惟良に師事し、その奥義を究めました。後に独自の境地を開き、福井端隠、古森痴雲、中西笠山、阪田葛丘など、多くの優れた門弟を育てました。

一時、家運が衰えた際には信越地方を遊歴し、霞樵再生と名乗りました。帰郷後は、仮住まいで篆刻や書画に没頭する日々を送り、その作品を求める文人墨客が後を絶たなかったと言われています。

蠖庵という号は、晩年の居宅に由来します。諸国を漫遊して帰ってくると、家が古く棟がたわんでおり、その様子が尺取虫（蠖）のようだったことから名付けられました。この号は主に書画に用いられ、篆刻には栗齋と号しました。その他にも百以上の別号があったとされています。晩年は目を悪くしたため、眯翁と号しました。

蠖庵は清雅な人柄で博識であり、無欲で気高く、常に穏やかに人と接しました。慈悲深く、困っている人がいると放っておけず、盗賊にあって困窮した人に、自ら描いた書画を20数枚も贈って復興の資金に充てさせたという逸話も残っています。また、青木木米が零落して伊勢に身を隠していた際にも救済し、木米は後に京焼の陶工として大成しました。

天保8年（1837年）に73歳で没し、伊勢山田の天神岡に葬られました。印譜に『蠖庵印譜』があります。蠖庵の生涯は、福井端隠の『符先生寿伝』に詳しく記されています。

人物

蠖庵は、その人柄から多くの人に慕われました。清雅を好み、博識でありながら無欲で、常に穏やかな態度で人に接しました。慈悲深く、困っている人を見ると見過ごすことができず、積極的に救済の手を差し伸べました。

参考文献

中井敬所「日本印人伝」『日本の篆刻』1966年 中田勇次郎編 二玄社
三村竹清「伊勢と篆刻家」『三村竹清集5』青裳堂＜日本書誌学体系23＞

関連項目

* 日本の篆刻家一覧

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