趙孟頫

趙孟頫：宋亡後の元で活躍した文人

趙孟頫（ちょう もうふ、1254年-1322年）は、南宋から元にかけて活躍した、稀代の政治家、書家、画家です。字は子昂、号は松雪、諡号は文敏。南宋の皇族の血を引く名門の出身でありながら、宋亡後、元朝に仕えたことで知られています。

華麗なる一族と宋亡

趙孟頫は、南宋の第2代皇帝・孝宗の同母兄の玄孫にあたります。祖父は趙希戭、父は趙与訔という、代々名家として知られた一族に生まれました。兄弟も多く、趙孟頔、趙孟頒、趙孟碩、趙孟頌、趙孟頖、趙孟顥という兄弟と、趙孟龥、趙孟頵、趙孟願という弟がいました。彼の妻、管道昇もまた著名な画家として知られています。王蒙は趙孟頫の外孫にあたります。

南宋の滅亡後、趙孟頫は一時、真州（現在の江蘇省揚州市）の司戸参軍を務めますが、宋の滅亡と共に官職を辞します。

元への仕官と複雑な評価

至元23年（1286年）、元世祖クビライ・ハンに召され、大都へ赴き、兵部郎中となりました。しかし、宋を滅ぼした元への仕官は、一族や世間の反発を招き、縁を切った者もいたと伝えられています。このことは、彼の後世における評価を複雑なものにしています。その後、歴代の元皇帝のもと、集賢院や翰林院の学士として仕え、その才能を遺憾なく発揮しました。69歳で亡くなると、魏国公に追封され、文敏と諡されました。

書家としての卓越した才能

趙孟頫は書家としても類まれな才能を示しました。王羲之の書風を深く学び、宋代の奔放な書風とは一線を画す、端正で典雅な書風を確立しました。その書は王羲之をも凌駕すると言われるほど高く評価され、中国書道史上に燦然と輝く存在となっています。

画家としての業績

書のみならず、画家としても優れた才能を発揮し、文人画の復興に大きく貢献しました。彼の絵画は、洗練された筆致と、詩情豊かな表現で知られています。

代表作品

彼の代表的な作品には以下のようなものがあります。

「蘭亭十三跋」（東京国立博物館）
「楷書玄妙観重脩三門記巻」（東京国立博物館）
「漢汲黯伝」（永青文庫）
「道徳経」（元代延祐3年作）
* 「楷書張総管墓誌銘巻」（故宮博物館）

後世への影響と評価

趙孟頫の作品は、後世の書家や画家たちに多大な影響を与え、その書風は「趙体」として広く知られています。しかし、宋亡後の元への仕官という経歴から、中華思想の観点からは複雑な評価を受けています。彼の作品は、その優れた芸術性と、歴史的背景の複雑さから、今もなお多くの人々の関心を集めています。 彼の文集『松雪斎集』も後世に残る貴重な資料です。

趙孟頫と現代

現代においても、趙孟頫の作品は高く評価されており、世界中の美術館に所蔵されています。また、水星にあるクレーターにも彼の名前が付けられています。彼の生涯と作品は、歴史、芸術、そして人間の複雑な生き様を私たちに語りかけてくれるでしょう。

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