小泉癸巳男

小泉癸巳男：昭和の東京を版画で描いた巨匠

小泉癸巳男（こいずみ きしお、1893年6月23日 - 1945年12月7日）は、静岡県静岡市出身の版画家です。旧幕臣の書家の子として生まれましたが、幼少期は病弱で学業は振るいませんでした。しかし、絵画への才能は早くから開花し、16歳の時に上京、画家への道を歩み始めます。

上京後は、義兄の助けを得て東京で絵画の研鑽を積みました。日本水彩画会研究所で研鑽を積み、戸張孤雁や織田一磨といった著名な画家たちから指導を受けました。その後、彫師の工房に入り、木版画の技術を習得。水彩画と木版画、両方の技術を高いレベルで習得した稀有な存在でした。

技術を習得した小泉は、自身の作品制作と同時に、版画の普及にも尽力します。版画用具の販売や版画技法に関するコラムの執筆、版画雑誌の発行、さらには木版画の技法書『木版画の彫り方と刷り方』を出版するなど、多角的な活動で版画界の発展に貢献しました。

彼の活動は、版画団体への参加にも見られます。日本創作版画協会（後に日本版画協会と改称）に創立時から参加し、精力的に作品を発表しました。同協会での発表回数は非常に多く、彼の版画界における高い地位と影響力を示しています。また、共同展示会や創作版画講座の開催、作品頒布会の実施など、版画の普及活動にも積極的に取り組みました。

小泉の代表作として知られるのが、『昭和大東京百図絵』です。1930年から7年もの歳月をかけて制作されたこの作品は、昭和初期の東京の街並みを100景にわたって描いた、壮大な版画作品集です。東京の近代化が進む様子を克明に描き出したこの作品は、現代においても歴史的価値の高い資料として高く評価されています。

『昭和大東京百図絵』以外にも、小泉は数多くの作品を発表しました。富士山を題材とした『聖峰富岳三十六景風景版画』もその一つです。彼は富士山麓を旅しながら制作を進めていましたが、完成を見ることなく1945年に52歳の若さで亡くなりました。

小泉癸巳男の作品は、現在でも多くの美術館に収蔵され、高い評価を受けています。彼の作品は、昭和初期の東京の風景や、当時の社会情勢を伝える貴重な資料であると同時に、高度な版画技術と芸術性を兼ね備えた、優れた芸術作品として後世に語り継がれています。彼の活動は、日本の版画史に大きな足跡を残したと言えるでしょう。

主な作品収蔵先としては、静岡県立美術館、東京国立近代美術館、国立美術館、練馬区立美術館、東京都江戸東京博物館、千葉市美術館、愛知県美術館、信州新町美術館などがあります。彼の作品は、日本のみならず海外にもコレクターが存在し、国際的にも高く評価されています。小泉癸巳男は、昭和期の日本の版画界を代表する巨匠の一人として、その名を残しています。

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