小畠郁生

小畠 郁生（おばた いくお）

日本の古生物学者、小畠郁生氏は、1929年から2015年にかけて活躍しました。専門は古生物学、特にアンモナイトを中心とした無脊椎動物の研究で国内外に知られる一方、日本における中生代（特に白亜紀）の脊椎動物、とりわけ恐竜の研究においても先駆的な役割を果たし、その学術的な発展と社会への普及に尽力しました。

氏の初期の経歴には、時代の波が色濃く反映されています。1929年に福岡県で生まれた小畠氏は、旧制逗子開成中学校を卒業後、太平洋戦争末期の1945年、海軍兵学校に78期生として入学しました。しかし、終戦により短期間で退校となります。戦後、九州大学理学部地質学科で学び、古生物学の研究者を目指しました。同大学院理学研究科博士課程を中途退学後、九州大学地質学教室の助手、西南学院大学の講師などを経て、研究の道を歩みました。

1962年、小畠氏は国立科学博物館の研究員となりました。同年5月には、長年取り組んできたアンモナイトの仲間であるバキュリテス科に関する研究成果をまとめた論文「Baculitidae from Japan」により、九州大学から理学博士号を取得しました。この業績は、氏のアンモナイト研究における高い専門性を示すものでした。1966年には、日本古生物学会より最優秀論文賞を受賞し、研究者としての評価を確立しました。国立科学博物館では、1982年から1994年にかけて地学研究部の部長を務め、部門の研究活動を指導しました。

小畠氏はアンモナイト研究者である一方、日本国内ではまだ研究者が少なかった中生代脊椎動物化石にも強い関心を持っていました。その特筆すべき例が、1969年から1970年にかけて行われた、福島県いわき市でのフタバスズキリュウ発掘への参加です。これは日本で発見された初の大型首長竜のほぼ全身骨格であり、氏や当時の同僚であった長谷川善和氏らの尽力によって実現した快挙でした。また、国立科学博物館退職後も、九州大学時代の教え子である東京学芸大学の松川正樹氏と共に、日本の恐竜の足跡化石に関する研究を継続しました。

小畠氏の最大の功績の一つは、専門性の高い恐竜研究を一般の人々に分かりやすく伝え、日本の恐竜学の普及に貢献した点にあります。1993年に編纂した『恐竜学』（東京大学出版会）は、当時の日本における恐竜研究の現状や研究方法を体系的にまとめたもので、国内の恐竜研究の基礎となる書籍となりました。群馬県神流町にある神流町恐竜センターでは名誉顧問を務めるなど、地域における化石研究や教育活動を支援しました。さらに、子供向けの絵本から専門書まで、数多くの単著、共著、編纂、監修を手がけ、幅広い層に太古の世界の魅力を伝えました。海外の重要な恐竜に関する研究書や図鑑の翻訳も積極的に行い、日本の読者が世界の最新研究に触れる機会を提供しました。NHKの子供向け教育番組「天才てれびくん」内のコーナー「恐竜惑星」に「恐竜博士」役として出演したほか、日本の特撮テレビドラマ「恐竜探険隊ボーンフリー」や、「週刊 恐竜サウルス！」の日本語版監修を務めるなど、メディアを通じた啓発活動にも積極的に関わり、多くの人々の自然科学への関心を高めました。

国立科学博物館退官後は、大阪学院大学国際学部教授として教育の現場に立ち、後進の育成にも力を注ぎました。晩年は国立科学博物館名誉館員として、日本の科学の発展を見守りました。小畠郁生氏の生涯は、純粋な学術探求と、その成果を広く社会と共有することへの情熱に貫かれていました。アンモナイト研究で培った科学的思考力に加え、日本における恐竜研究の黎明期からその発展と普及に尽力した功績は計り知れません。フタバスズキリュウ発掘への関与や、『恐竜学』編纂、数多くの啓発活動を通じて、氏は日本の古生物学、特に恐竜学研究の隆盛に確固たる礎を築きました。その活動は、今日の日本の科学教育や博物館活動にも大きな影響を与え続けています。

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