小石房子

小石房子

小石房子（こいし ふさこ）氏は、日本の小説家であり、女性史研究家としても知られています。1937年、大分県大分市に生まれ、大分県立大分上野丘高等学校を経て、青山学院女子短期大学国文科を卒業しました。日本ペンクラブの会員でもあります。

作家活動の始まりと転換

作家としてのキャリアは、当初児童文学の世界から始まりました。那須辰造氏に師事し、『トナカイ村』という同人グループの一員として、主に児童向けの作品を発表していました。小石氏の執筆活動が、後の中心テーマとなる歴史物へと大きく転換する契機となったのは、1975年の国際婦人年です。この年、作家の南原幹雄氏の勧めもあり、日本の女性史を中心とした歴史テーマに取り組むことを決めました。

執筆のテーマ：女性史と裏面史

小石氏の著作活動の根幹には、日本の歴史が長きにわたり男尊女卑の価値観に強く影響されてきたことへの深い問題意識があります。そのため、歴史の「正史」の中で意図的に軽視されたり、あるいは記述そのものが欠落したり、評価が歪められたりしてきた女性たちの姿に光を当てることに情熱を注いでいます。特に、歴代の女帝たちのように、権力の中枢にいながらも性別ゆえの困難や偏見に直面したであろう女性たちの真実を掘り起こし、歴史小説として生き生きと描き出しています。

また、歴史は往々にして時の為政者や勝利者の視点から語られがちですが、小石氏はその「正史」の裏側に目を向け、「裏面史」とも呼べる流人たちの歴史にも独自の視点を注いでいます。政治的な失脚や事件に巻き込まれるなどして、故郷から遠く離れた島々などに流された人々の過酷な運命、その地での生活、そして残された足跡を丹念に取材し、作品化することで、歴史の多角的な理解を促しています。

多岐にわたる活動

小石房子氏は、精力的な執筆活動と並行して、歴史の普及にも尽力しています。長年にわたりカルチャー教室で歴史講座の講師を務めており、特に横浜で平成元年（1989年）に始まった講座は、令和の時代まで30年以上続く息の長い活動として多くの受講者に親しまれています。また、歴史の現場に実際に足を運ぶことの重要性を唱え、歴史ゆかりの地を訪ねる『歴史の旅』も企画・実施しており、既に30回を超える回数を重ねるなど、教育普及活動にも力を入れています。

主な著作

小石氏の著作は多岐にわたりますが、特に古代の女帝たちを描いたシリーズは代表的です。『暁の女帝推古』、『巫女王斉明』（後に『巫女の王斉明』と改題）、『天照す、持統』（後に『鉄の女帝持統』と改題）、『元明女帝 かぐわしき天平の母』などがあります。また、流人に関する著作としては、『流人100話』、『江戸の流刑』、『流人望東尼』といった作品があり、このテーマにおける第一人者の一人と言えるでしょう。戦国時代の女性に焦点を当てた『女たちの本能寺』や、大友宗麟の妻を描いた『豊後の王妃イザベル』なども知られています。近年では、自身の半生と女性史への取り組みを振り返る著書『男子にあらずんば子どもにあらず 女性史と私』を2023年に刊行しました。

これらの単著に加え、歴史上の人物や出来事を様々な角度から分析する多くの共著も発表しています。

その他の貢献

雑誌への寄稿も数多く、歴史専門誌を中心に多数の記事を執筆してきました。また、各地での講演会に招かれ、歴史の魅力を語る機会も多く持っています。演劇の解説も手掛けており、『開化恋草紙』や『平家女護・嶋』、『出雲の阿国』といった舞台作品の背景解説を担当するなど、歴史知識を様々な形で伝える活動を展開しています。

小石房子氏は、歴史の表舞台から見過ごされがちな人々の物語、特に女性や流人の人生に光を当てることで、日本の歴史研究と文学に独自の貢献を続けています。その活動は、単なる歴史の伝達にとどまらず、現代社会におけるジェンダーや権力構造への問いかけも含んでおり、日本の歴史研究や文学において重要な位置を占めています。

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