小選挙区比例代表併用制

小選挙区比例代表併用制とは、選挙制度の一種であり、小選挙区制と比例代表制の要素を融合させたものです。全議席は比例代表制に基づき、政党の得票率に応じて配分されます。しかし、各政党においては、まず小選挙区で当選した候補者に優先的に議席が割り当てられます。これは、有権者が直接代表を選出できる小選挙区制の利点と、政党間の勢力均衡を図る比例代表制の利点を組み合わせた制度と言えるでしょう。

この制度の仕組みは、大きく分けて以下の3つの段階から成り立っています。まず、比例代表制に基づき、各政党への議席配分が決定されます。次に、各政党に割り当てられた議席は、その党の小選挙区当選者に優先的に割り当てられます。最後に、小選挙区当選者で議席が埋まらなかった場合に限り、比例代表名簿に登録された候補者が補充されます。そのため、小選挙区で獲得した議席数が比例代表で得た議席数を上回る政党は、通常は存在しません。ただし、比例代表における一票の格差を自動調整する機能は、この制度では失われます。

多くの場合、比例代表選挙と小選挙区選挙は、別々に投票が行われます（二票制）。しかし、小選挙区の候補者への投票を、その候補者の所属政党への投票とみなして、全国の得票を集計し、政党別に比例配分することも理論上は可能です（一票制）。

小選挙区で無所属の候補者が当選した場合、その候補者は比例代表の枠外で当選することになります。極端なケースとして、全ての候補者が無所属で出馬した場合、この制度は事実上、小選挙区比例代表並立制と同様の様相を呈します。ドイツでは、この事態を防ぐため、同一候補者が小選挙区と比例代表の両方に立候補することが奨励されています。著名な政治家であるヘルムート・コールやハンス・ディートリヒ・ゲンシャーも重複立候補を行い、小選挙区で落選しても比例代表で当選（復活当選）するケースが見られました。

この制度における重要な概念として「超過議席」があります。ドイツでは、小選挙区で獲得した議席数が、比例代表で獲得した議席数を超えた場合、その超過分も議席として認められます（超過議席）。そのため、ドイツ連邦議会では、定数よりも多くの議員が当選することになります。この超過議席は、特にキリスト教民主同盟や社会民主党といった大政党に有利に働く傾向があり、議会の安定性にも寄与する側面がある一方、制度の公平性に疑問を呈する声もあります。

小選挙区比例代表併用制は、比例代表制の性格が強い選挙制度です。小選挙区制の要素を加えることで、有権者が直接代表を選ぶ機会が提供されていますが、最終的には政党の得票率に応じて議席が配分されます。そのため、小選挙区で落選しても、比例代表名簿に基づいて当選する可能性があります。この仕組みは、ヘルムート・コール元首相のように、小選挙区で複数回落選しながらも、比例代表で復活当選を繰り返すケースを生み出しました。また、各政党が選挙に強い候補者を比例代表名簿の上位に配置する傾向があるため、若手政治家の育成が阻害され、党の高齢化を招く可能性も懸念されています。さらに、この制度は小政党の乱立を招きやすく、連立政権の形成が難しく、政権発足の遅延や政策決定の複雑化といった問題も引き起こす可能性があります。選挙後の連立交渉は非常に複雑で、長期間に渡ることがあり、有権者の意向と実際に実行される政策にずれが生じる可能性も指摘されています。ドイツでは、比例代表制の乱用を防ぐため、「5％条項」が設けられています。これは、比例代表選挙において、得票率が5％に満たない政党には議席を与えないというものです。しかし、この条項にも関わらず、中道右派と中道左派の大連立政権が成立するなど、有権者の不満がくすぶる状況も生まれています。

小選挙区比例代表併用制は、ドイツ、ニュージーランド、スロベニア、ルーマニア、ベネズエラ、アルバニア、ボリビア、ハンガリー、イギリス（スコットランド議会、ウェールズ議会、ロンドン議会）、南アフリカ共和国（地方選挙）、大韓民国（国会）など、多くの国で採用されていますが、それぞれの国で制度の運用方法や効果は異なっています。特に大韓民国では、小政党に有利なシステムが導入されましたが、大型政党の衛星政党の出現により、その効果は限定的となっています。

このように、小選挙区比例代表併用制は、民意を反映しつつ政治の安定性を確保しようとする制度ですが、その複雑さや、潜在的な問題点も理解しておく必要があります。

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