大連立

大連立とは

大連立とは、議院内閣制を採用する国において、複数の政党が協力して内閣を組織する連立政権の一種です。特に、議会で第一党と第二党という二大政党が連携して政権を運営する形態を指します。これは、国内の政治的な安定を図ることを主な目的としています。

大連立が成立する要因

大連立は、通常の政権運営では見られない特殊な状況下で成立することが多いです。以下に、大連立が成立する主な要因を解説します。

選挙制度以外の要因

二大[[政党制]]の国では、通常、各党が単独で過半数の議席を獲得することを目指します。しかし、選挙結果によってはどちらの党も単独で過半数に達しないことがあります。その場合、通常はイデオロギーの近い小政党と連携して連立政権を樹立しようとします。しかし、二大政党は政策や支持基盤が大きく異なるため、両党が協力することは非常に困難です。これが大連立が稀な理由の一つです。

非常時

戦争や大不況のような国家的な危機が発生すると、国民はイデオロギーの違いを超えて国家の統一や安定を求めるようになります。このような状況下では、普段対立する二大政党が協力して内閣を組織する大連立（挙国一致内閣）が成立しやすくなります。特に、危機への対応策について各党間で幅広い合意がある場合、大連立はより実現しやすくなります。

極右・極左の入閣阻止

新興の小政党が勢力を増し、政権を脅かすような場合、二大政党が互いの共通点に目を向け、協力体制を築くことがあります。例えば、極右や極左の政党が政権入りすることを防ぐために、左右の大政党が連立を組むことがあります。これは「防疫線」とも呼ばれます。また、小政党が自らの主張を通すために、より幅広い連立を組んで政権に参加することもあります。

選挙制度を理由とする大連立

小[[選挙区比例代表併用制]]や完全比例代表制といった選挙制度を採用している場合、議会第一党が単独で過半数を獲得することが難しく、連立内閣が基本となります。このような制度下では、中道右派と中道左派の二大政党による大連立が起こりやすくなります。ドイツのように、小[[選挙区比例代表併用制]]を採用しているにもかかわらず、議会第一党が単独で過半数を獲得した例がない国では、政権空白を防ぐために大連立が組まれることがあります。しかし、連立交渉には数ヶ月を要し、政策の異なる政党間で合意を形成する必要があります。

大連立の弊害

大連立は、政権の安定をもたらす一方で、以下のような弊害も指摘されています。

議会解散権制限の弊害

ドイツのように、任期満了や首相不信任の場合しか早期選挙ができない国では、選挙後に政策の異なる政党間で連立政権を成立させる必要があり、政治的混乱を招きやすいです。一方、首相の権限で議会を解散できる国では、少数与党でも早期に総選挙を実施することで政権の安定化を図ることができます。

頻繁な大連立・大きく政策の異なる連立政権の弊害

比例代表制が中心で、議会第一党が単独で過半数を取れない国では、大連立が頻繁に発生しがちです。中道右派と中道左派による大連立は、選挙民や小政党の間で政策が実行されないことや選択の自由がないことへの不満を高め、結果として極右・極左政党への投票を増やしてしまう傾向があります。

各国での大連立の事例

イギリス

1914年 - 1918年：自由党、保守党、労働党による挙国一致内閣
1931年 - 1939年：保守党、自由党の一部、労働党の一部による国民政府
1939年 - 1945年：保守党、労働党、自由党による挙国一致内閣

ドイツ

1966年 - 1969年：キリスト教民主同盟・キリスト教社会同盟（CDU/CSU）とドイツ社会民主党（SPD）による大連立
2005年 - 2009年：CDU/CSUとSPDによる大連立
2013年 - 2021年：CDU/CSUとSPDによる大連立

イスラエル

1984年、1990年、2001年 - 2003年、2005年 - 2006年：リクードと労働党による大連立
2020年 - ：リクードと青と白による挙国一致内閣

スイス

1959年 - ：4大政党間の閣僚配分（「マジック・フォーミュラー」）

オーストリア

1945年 - 1966年、1986年 - 2000年、2006年 - 2017年：オーストリア国民党とオーストリア社会民主党による大連立

その他の国

ブルガリア：2005年 - ブルガリア社会党、安定と進歩のための国民運動、権利と自由運動による大連立
ポルトガル：1985年 - 1987年：社会党と社会民主党による大連立（中央ブロック）
ギリシャ：2011年 - 2015年：全ギリシャ社会主義運動、新民主主義党、国民正統派運動による挙国一致内閣
イタリア：2013年：中道左派と中道右派による大連立、2021年：五つ星運動、民主党などによる挙国一致内閣

日本

第二次若槻内閣：立憲民政党と立憲政友会による連立が模索された。
自社さ連立政権：1994年、自由民主党と日本社会党が連立を組んだ。

大連立への批判

第二次世界大戦後の日本では、大連立が強権的なイメージと結びつけられ、批判されることがあります。特に、大政翼賛会のような一党独裁的な体制との関連で語られることがあります。また、戦後初期には、共産党以外の主要政党による大連立構想がありましたが、政策の違いや反発によって実現しませんでした。

日本における大連立構想

連合国軍占領期の大連立構想

終戦後の混乱期に、GHQの占領下で共産党の台頭を阻止するために、共産党以外の主要政党による大連立構想が模索されましたが、実現には至りませんでした。

その後の大連立構想

1996年：自民党と新進党による「保保連合」構想が浮上したが、実現せず。
2005年：小泉純一郎首相が民主党に連立を提案したが、民主党が拒否。
2007年：福田康夫首相と民主党の小沢一郎代表の間で大連立構想が話し合われたが、民主党内の反対により実現せず。
2011年：東日本大震災を受け、菅直人首相が自民党に協力を打診したが、自民党が拒否。
* 2019年：自民党が国民民主党に大連立を打診したが、実現せず。

まとめ

大連立は、政権基盤を安定させるための有効な手段ですが、選挙制度や政治状況によっては弊害も生じます。各国で様々な形の大連立が試みられていますが、その成立には様々な要因が絡み合っていることがわかります。日本の政治においても、過去に何度か大連立構想が浮上しましたが、その実現は容易ではありません。

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