小野十三郎

小野十三郎：伝統を打破し、社会を見つめた詩人

小野十三郎（1903年7月27日 - 1996年10月8日）は、日本の詩人です。本名を小野藤三郎といい、アナーキズムの影響を受けた初期の詩作や、伝統的な叙情詩を批判する革新的な詩論で、戦後の詩壇に大きな影響を与えました。彼は関西詩人協会に所属し、詩誌「赤と黒」に参加していました。

生涯

大阪市南区の裕福な家庭に生まれた小野は、天王寺中学校を卒業後、1921年に上京し東洋大学専門学部文化学科に入学しますが、8ヶ月で中退します。その後は、親からの仕送りを受けながら詩作に専念しました。

1923年、萩原恭次郎、壺井繁治、岡本潤らの詩誌『赤と黒』に参加し、アナーキズム詩運動に身を投じます。1926年には、アナーキズム的傾向の強い第一詩集『半分開いた窓』を刊行しました。1927年には雑誌「文芸解放」の創刊同人となり、1930年には岡本潤・秋山清らと協力して『弾道』を創刊します。

1930年代に入ると、小野の詩は社会への関心を深めます。第二詩集『古き世界の上に』以降、彼の詩には戦争の影が色濃く反映されるようになり、社会に対する批判精神が込められるようになります。1933年には「解放文化連盟」を結成し、大阪へ転居。

1939年には、大阪の重工業地帯を題材にした詩集『大阪』を発表し、独自の詩風を確立しました。また、吉本興業の文芸部に所属し、秋田實らと共に漫才台本を執筆していた時期もあります。1935年に日本無政府共産党ギャング事件が起きた際には、日本無政府共産党のシンパとして大阪府警察阿倍野警察署に拘束されています（起訴猶予により釈放）。

戦後、1947年に発表した詩論をまとめた『詩論』は、日本の現代詩に大きな影響を与えました。彼は短歌的な抒情を否定し、より社会的な視点を取り入れた詩を提唱しました。塚本邦雄らの前衛短歌は、これに呼応する形で反論的実践として推進されたといわれています。小野がこのような批判を展開した背景には、戦時中に斎藤茂吉ら多くの有名歌人が戦争協力的な活動をしていたことがあるとされています。

戦後は教育者としても活動し、1952年から帝塚山学院大学で講師、後に教授を務めました。1954年には大阪文学学校を創設し、1991年まで校長として後進の指導に尽力しました。小説・詩・児童文学などの講座を開設し、文学の大衆化や市民平和運動に指導的な役割を果たしました。

1975年には、詩集『拒絶の木』で読売文学賞を受賞。1977年から2年間、日本現代詩人会会長を務めました。1979年には『小野十三郎全詩集』が刊行されています。

1999年、大阪文学学校の校長を長年務めた小野の詩業を記念し、優れた詩集ならびに詩評論書へ贈られる小野十三郎賞が創設されました。

受賞歴

『大阪』（大阪市民文化賞）
『拒絶の木』（読売文学賞）
『詩論』（大阪府民文学賞）

主な著作

『半分開いた窓』(1926年)
『大阪』(1939年)
『詩論』(1947年)
『異郷』(1966年)
『小野十三郎全詩集』(1979年)

小野十三郎は、社会への鋭い視点と革新的な詩論によって、日本の現代詩に大きな足跡を残しました。

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