小野武年

小野 武年

日本の医学者、生理学者として知られる小野武年氏（1938年 - 2022年）は、富山医科薬科大学の学長、名誉教授を歴任し、脳生理学、特に情動や摂食行動のメカニズム解明に深く寄与しました。最終的な位階は従三位でした。

生涯とキャリア

小野氏は1938年6月3日、英領マレー半島のコタバル市に生を受けました。国内に戻り、鹿児島大学医学部で医学を学び、1964年に卒業。その後、金沢大学大学院医学研究科に進学し、摂食中枢の抑制機構に関する綿密な研究に取り組みました。この研究成果により、1969年に医学博士号を取得。同年、金沢大学医学部生理学教室の助手となり、研究者としての第一歩を踏み出しました。1973年には助教授に昇進し、研究・教育に携わります。

1977年、小野氏は富山医科薬科大学医学部に生理学教授として着任し、研究室を主宰。長年にわたり、脳機能に関する最先端の研究を進めると同時に、多くの医学生や研究者の指導にあたりました。その学識とリーダーシップが評価され、2004年には富山医科薬科大学の学長に就任。大学の運営と発展にも尽力しました。学長退任後は名誉教授の称号を得、さらに富山大学大学院医学薬学研究部で特任教授としても引き続き研究・教育活動に関わりました。

研究活動と主な業績

小野氏の学術的な功績は、脳における情動や摂食行動の神経基盤の解明に集中しています。特に、食欲の調節に関わる脳内機構や、感情がいかに身体行動、とりわけ摂食に影響を与えるかを生理学的な視点から探求しました。これらの研究は、摂食障害や感情に関連する精神疾患の理解に重要な基盤を提供しました。その革新的な研究は国内外の学会で高く評価され、1984年にはセッシェノフ賞、1994年には中日文化賞を受賞するなど、多くの栄誉に輝きました。また、学術研究における長年の貢献が認められ、2015年11月には瑞宝中綬章を授与されています。小野氏は多数の独創的な学術論文を発表し、生理学および脳科学分野の進展に大きく貢献しました。

著作と翻訳

研究成果を広く共有し、専門分野の発展に貢献するため、小野氏は精力的に著作活動や翻訳に取り組みました。単著としては、

『脳と情動 ニューロンから行動まで』（朝倉書店、2012年）
『情動と記憶 しくみとはたらき』（中山書店、2014年）

などがあり、複雑な脳の機能や情動、記憶のメカニズムを分かりやすく解説しています。また、共編・監修としても、

松本元氏との共編による『情と意の脳科学 人とは何か』（培風館、2002年）
『情動学シリーズ』全5巻の監修（朝倉書店、2015年-2016年）

を手がけ、情動学の体系化と普及に貢献しました。さらに、海外の重要な研究成果を日本に紹介するため、翻訳も行っています。

J.C.エクルズ著『脳 その構造と働き』（大村裕氏と共訳、共立出版、1977年）
James Olds著『脳と行動 報酬系の生理学』（大村裕氏と共訳、共立出版、1981年）

これらの翻訳書は、日本の研究者や学生が世界の最先端の脳科学研究に触れる上で極めて価値のあるものでした。

結び

小野武年氏は、脳生理学の分野で先駆的な研究を展開し、特に情動や摂食行動の神経メカニズム解明において多大な業績を残しました。教育者、研究者、そして大学運営者として、日本の生理学、脳科学の発展に不可欠な貢献を果たしました。その学問的遺産は、多くの著作や論文を通じて今なお後進に影響を与え続けています。2022年に逝去されましたが、その功績は長く記憶されるでしょう。

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