小黒村

小黒村（こぐろむら）

小黒村は、日本の近代地方自治制度の下で、かつて新潟県東頸城郡に存在した村です。その短い歴史は、周辺地域の再編と密接に関わっており、約半世紀強にわたって自治体として機能しました。

村が誕生したのは、今から一世紀以上前、1901年（明治34年）11月1日のことです。この合併劇は、当時の東頸城郡内で進められた広範な市町村統合の一環として実行されました。具体的には、周辺に位置していた小切戸村、沼木村、行野村の全域と、すでに存在していた安塚村の一部であった大字和田地区が一つに統合され、新たな行政単位として「東頸城郡小黒村」が設立されました。この合併は、明治政府が進めた地方制度改革に基づき、より効率的で安定した村政運営を目指す意図があったと推測されます。複数の村やその一部が集まることで、行政サービスの均質化や財政基盤の強化が期待されたのです。

小黒村が存続した約54年間の歴史の中で、特に記憶されるべき人物がいます。それは、村長を務めた横尾義智氏です。彼の村長就任は、日本の地方自治史において画期的な出来事でした。なぜなら、彼はろう者であり、その当時においてろう者が自治体の首長に就任した例は、日本全国を探しても他に確認されていません。すなわち、横尾氏は「ろう者では日本初の村長」という極めて歴史的な役割を果たしたのです。彼の具体的な村政運営の詳細については、手元の情報からは多くを語ることはできませんが、障がいのある人々の社会参加がまだ限定的であった時代背景を考慮すると、彼の村長就任は、当地域の、そして日本の社会における多様性の受容と、障がい者の能力に対する信頼を示す重要な一歩であったと言えるでしょう。彼の存在は、小黒村の歴史に特別な光を当てています。

昭和時代に入り、日本全国でさらなる大規模な市町村合併が進められました。これは「昭和の大合併」と呼ばれる一連の動きであり、行政効率の向上や広域行政への対応を目的としたものでした。小黒村もまた、この波に飲み込まれることとなります。1955年（昭和30年）3月31日、小黒村は、同じ東頸城郡の安塚村の一部区域、そして菱里村と合併しました。この合併により、新たな自治体として「東頸城郡安塚村」が改めて発足し、小黒村は独立した行政単位としての役割を終え、その区域は新しい安塚村の一部となりました。小黒村は、明治に周辺地域の一部が集まって生まれ、昭和に再び周辺地域と合併して消滅した、約半世紀強の歴史を持っていたのです。

昭和の合併で誕生した新たな安塚村は、その後さらに時代の変遷を経て、平成の大合併において周辺の町村と合併しました。2005年1月1日には、安塚村は上越市、柿崎町、大潟町、吉川町、頸城村、大島村、浦川村、牧村、板倉町、清里村、三和村、名立町と新設合併し、現在の広大な上越市の一部となりました。したがって、かつて小黒村が存在した地域は、現在では上越市安塚区の一部となっていると考えられます。このように、小黒村の歴史は、明治から平成にかけて進められた日本の市町村合併の歴史と深く結びついています。

小黒村のような廃止された自治体の歴史を深く知るためには、『市町村名変遷辞典』（東京堂出版、1990年）のような専門的な文献が貴重な情報源となります。また、新潟県の地方自治体の歴史全体を把握するには、「新潟県の廃止市町村一覧」といった資料を参照することも有益です。小黒村の短いながらも特異な歴史は、日本の地方自治の歩みを理解する上で、興味深い事例の一つと言えるでしょう。

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