尼崎城

尼崎城：近世の城郭と歴史の痕跡

尼崎城は、兵庫県尼崎市に存在した城郭です。江戸時代初期、元和3年(1617年)に戸田氏鉄によって築城されました。複雑な水堀と堅固な構造を持つ平城で、大坂湾に注ぐ河川を利用した戦略的な立地が特徴です。

築城から廃城へ

尼崎城は、戸田氏、青山氏、そして桜井松平家と、築城から廃城までの約250年間で3つの氏族、12代の城主が統治しました。城は三層の堀で囲まれ、本丸には壮麗な四重天守と複数の櫓がそびえ立っていました。本丸御殿は、大書院を中心とした複数の建物から構成され、中でも「金之間」と呼ばれる貴賓室は、その豪華さで知られていました。

しかし、弘化3年(1846年)の大火により本丸御殿は焼失。それでも領民の尽力により、翌年には再建が完了するなど、城に対する人々の思い入れの強さがうかがえます。明治6年(1873年)の廃城令によって、尼崎城の建物の大部分は取り壊されました。わずかに残された本丸御殿の一部「金之間」は、菩提寺である深正院に移築されましたが、後に戦災で焼失しました。

城郭構造と縄張り

尼崎城は、大物川と庄下川が大阪湾に注ぐデルタ地帯に位置していました。そのため、船が直接城の近くに接岸できる立地条件であり、「海に浮かぶ城」とも呼ばれていました。ほぼ正方形の縄張りは、本丸を中心に、二之丸、松之丸、南浜、東三之丸、西三之丸といった複数の曲輪から構成されていました。これらの曲輪を取り囲むように、東本町、築地、西本町といった城下町が形成され、大坂と西宮を結ぶ中国街道も城下町に組み込まれていました。

本丸は、藩の政治の中枢であり、天守閣、複数の櫓、そして本丸御殿が配置されていました。天守閣は複合式の層塔型で、白漆喰で塗られた外観が特徴的でした。各隅には三重の隅櫓が配置され、渡櫓で天守閣と連結されていました。

大物城との関係

尼崎城の場所については、中世の絵図を参考にすると本興寺の跡地にあたると考えられています。近世尼崎城は、大物城を取り壊し、それを拡張する形で築かれたという説がありますが、戦国時代の文献からは、大物城は近世尼崎城の北東に位置していた可能性が示唆されています。現在、阪神電車の車庫付近に残る遺構が、大物城の名残である可能性も指摘されています。

近年の復元と保存

近年、家電量販店創業者の安保詮氏による多額の寄付によって、西三之丸跡地に外観復元天守が建設されました。これは、当時の天守閣を忠実に再現したものであり、尼崎市民の寄付や参加によって実現しました。現在、この復元天守は、尼崎城址公園の中心として、歴史と観光の拠点となっています。

遺構と発掘調査

廃城令後、尼崎城の建物の大部分は解体・売却されましたが、尼崎市教育委員会による発掘調査で、本丸御殿跡などの建物遺構や、石垣、橋脚などの遺物が発見されています。これらの遺物は、尼崎市立地域研究史料館や尼崎市立歴史博物館で公開されています。これらの遺構・遺物を通して、尼崎城の歴史をより深く理解することができます。尼崎城は、その歴史的意義だけでなく、近年の復元事業を通して、地域住民の記憶とアイデンティティを繋ぐ重要な存在となっています。

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