尾上多賀之丞 (3代目)

三代目尾上多賀之丞（1889年9月21日 - 1978年6月20日）は、明治時代から昭和時代にかけて活躍した歌舞伎役者です。本名は樋口鬼三郎、俳名としては梅華を名乗り、屋号は音羽屋でした。

東京市日本橋区（現在の中央区）出身で、叔父に歌舞伎役者の四代目淺尾工左衛門がいます。1892年8月、市川鬼三郎の名で初舞台を踏み、『恋初緑鈴木主水』で役者としてのキャリアをスタートさせました。その後、一時的に日本画家の鏑木清方に師事し、日本画を学んだ時期もありました。

1911年9月には、明治座で『四千両小判梅葉』に出演し、五代目市川鬼丸を襲名して名題に昇進しました。その後は小芝居で花形役者として活躍していましたが、六代目尾上菊五郎に才能を見出され、1921年10月に市村座の『網模様燈篭菊桐』で菊五郎一座に入り、女房役として迎えられました。

1927年6月には、新橋演舞場の新作『厄年』で、三代目尾上多賀之丞を襲名しました。1965年には勲五等双光旭日章を受章し、1968年には重要無形文化財保持者（人間国宝）に認定されました。1971年には菊池寛賞を受賞、1974年には勲三等瑞宝章を受章するなど、数々の栄誉に輝いています。1978年2月には、数え年90歳で『かっぽれ』を踊り、その生涯を閉じました。没後には正五位が追贈されています。

女形の名脇役として、特に六代目菊五郎の女房役としてその名を馳せました。人間国宝に認定された際のインタビューでは、「この頃が一番楽しかった」と語っており、充実した日々を送っていたことが伺えます。その後も、二代目松緑、七代目梅幸、そして七代目菊五郎と、音羽屋三代の相方を務めました。晩年は後進の指導にもあたり、その知識と経験を次世代に伝えました。

演じた役柄は多岐にわたり、『暗闇の丑松』のお今、『ひらかな盛衰記』「源太勘当」の延寿、『梅雨小袖昔八丈』（髪結新三）の後家お常など、新作から時代物、世話物まで幅広く演じました。中でも『盲長屋梅加賀鳶』（加賀鳶）のおさすりお兼は、最大の当たり役として知られ、80代を超えてもその江戸前の粋な伝法さと色気で観客を魅了しました。

六代目尾上菊蔵は養子です。

主な参考文献として以下のものがあります。

『私の履歴書 文化人12』日本経済新聞社 1984
『人間国宝　尾上多賀之丞の日記―ビタと呼ばれて』大槻茂編　青草書房　2010

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