梅雨小袖昔八丈

歌舞伎演目『梅雨小袖昔八丈』：解説とあらすじ

『梅雨小袖昔八丈』（つゆこそでむかしはちじょう）は、河竹黙阿弥作の歌舞伎演目の傑作です。通称『髪結新三』として広く知られています。明治6年（1873年）6月、東京中村座で初演されたこの作品は、全4幕からなる痛快な人情劇で、現在でも多くの上演を誇ります。

あらすじ

序幕は、江戸新材木町の材木問屋・白子屋が舞台です。主人が亡くなり、多額の借金を抱える白子屋。娘のお熊は手代・忠七と恋仲ですが、借金返済のために婿を取らされそうになります。お熊は婿取りを拒否し、忠七との駆け落ちを企てます。その様子を、白子屋に出入りする廻り髪結の新三が偶然耳にします。新三は、二人の駆け落ちを手助けし、自分の住まいへ匿うことを提案します。忠七も決意を固め、二人は白子屋を抜け出します。しかし、新三は、お熊を自分のものにするため、忠七を騙し、お熊を連れ去ります。雨の中、忠七は新三に裏切られ、傷つき、絶望の淵に立ちます。

二幕目では、白子屋の者たちが新三からお熊を取り戻そうと奔走します。乗物町の侠客・弥太五郎源七が、その依頼を引き受けます。源七は新三の住まいを訪れますが、新三は金に目がくらみ、お熊を簡単に手放そうとしません。源七は激怒しますが、取り乱すことなく、知恵と力を駆使して、お熊を救出します。この場面では、源七の度胸と、家主長兵衛の機転が物語を大きく動かします。

三幕目では、お熊は無事白子屋に戻ります。そして、大店の桑名屋から来た又四郎が、五百両の持参金を持って婿入りします。しかし、お熊は忠七への思いを断ち切れず、又四郎を遠ざけます。その結果、又四郎は白子屋を出て行こうとします。お熊は自害を図ろうとし、その際に誤って又四郎を殺してしまいます。お熊の身の代わりに、お菊が自害します。一方、源七は、新三に仕返しをすることを決意します。雨の夜、源七は新三を待ち伏せ、殺害します。

四幕目では、源七は新三殺しの容疑をかけられます。忠七は源七の罪を被ろうとしますが、町奉行の大岡越前守は、真実を見抜きます。お熊は又四郎殺しの罪を告白します。お菊の忠義と、お熊の正直さに、越前は感銘を受け、寛大な判決を下します。源七は入牢しますが、お熊は母と共に赦されます。

解説

『梅雨小袖昔八丈』は、享保時代の実際に起きた白子屋お熊の事件を基にしています。しかし、黙阿弥は、史実や既存の演劇作品を参考にしながらも、独自に脚色を加え、登場人物の性格や、物語の展開を大幅に変化させています。特に、髪結新三という悪党は、史実には存在せず、黙阿弥によって創作されたキャラクターです。

新三は、一見親切な人物として登場しますが、本性は冷酷で利己的です。しかし、意外にも、家主の長兵衛には手が出ません。この長兵衛とのやり取りは、本作の見どころの一つです。また、源七も、史実とは異なる、より人間味のある人物として描かれています。

舞台となった場所

本作の舞台は、現在の東京都中央区と江東区周辺です。新材木町、永代橋、富吉町、乗物町、閻魔堂橋、佐賀町、町奉行所など、具体的な地名が登場し、当時の江戸の風情を伝えるとともに、物語にリアリティを与えています。

まとめ

『梅雨小袖昔八丈』は、史実を下敷きにしつつ、大胆な脚色と、魅力的な登場人物によって、独自の物語世界を構築した傑作です。駆け落ち、裏切り、復讐、そして赦し…様々な要素が複雑に絡み合い、観る者を飽きさせない展開が魅力です。現在でも、歌舞伎の代表的な演目として、多くの人々に愛され続けています。

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