尾上松緑 (初代)

初代 尾上松緑（おのえ しょうろく、延享元年〈1744年〉- 文化12年10月16日〈1815年11月16日〉）は、江戸時代中期に活躍した歌舞伎役者です。屋号は音羽屋、一時期は新音羽屋を名乗りました。定紋は四つ輪に抱き柏。俳名として重扇・三朝・松緑があり、晩年には俳名の松緑を名跡として名乗りました。前名の初代 尾上松助（おのえ まつすけ）としても広く知られています。

初代松緑の出自については、不明な点が多く残されています。明治25年（1892年）に発行された『歌舞伎新報』には、大坂祇園の小芝居役者の息子である徳次郎が、幼名徳蔵と名乗り、宝暦5年（1755年）に父と共に江戸へ下り、初代尾上菊五郎の門下に入って松助と改名したという記述があります。しかし、大正2年刊の劇評家・伊原敏郎の著書『近世日本演劇史』では、徳蔵は江戸生まれで、初舞台は宝暦6年であるとされています。もし延享元年生まれであれば、宝暦6年には13歳となり、当時の役者の初舞台としては遅いと考えられます。また、宝暦12年（1762年）には子役から女形に転向していますが、この時すでに20歳であり、十代半ばで女形に転向するのが一般的であった当時としては異例です。歌舞伎研究家の渡辺保は、徳蔵は少年時代に色子として売られ、人気を集めていたため、舞台は名目に過ぎなかったのではないかと推測しています。

いずれにせよ、尾上松助の名が初めて世に出たのは、宝暦5年11月の市村座でのことです。その後、明和7年（1770年）には女形から立役へと転向しました。その理由として、師である初代菊五郎に倣ったという説と、本来の荒々しい性格が女形に収まりきらなかったためという説があります。後には実悪も演じるようになり、鏡山物の局岩藤は当り役として度々演じました。

芝居の仕掛けにも工夫を凝らすことを好み、特に鬘の生え際に羽二重を使用し、そこに一本ずつ髪の毛を植えるという手法は、松助の考案によるものとされています。享和4年（1804年）7月には、狂言作者の四代目鶴屋南北と提携した『天竺徳兵衛韓噺』が大成功を収め、以後、盆狂言や怪談狂言の役者としてその名を馳せるようになりました。その後も南北と協力し、『彩入御伽艸』の小幡小平次や『阿国御前化粧鏡』の阿国御前などの当たり役を残しました。文化6年（1809年）11月には、俳名の「松緑」を名跡として尾上松緑と改名し、松助の名跡は養子の初代尾上榮三郎（後の三代目尾上菊五郎）に譲りました。

背が高く容姿にも恵まれ、女形時代には初代中村富十郎によく似ていると評されました。立役となってからは、その体格を生かし、『暫』のウケや伊達騒動物の仁木弾正など、存在感のある悪役を演じました。また、音曲にも優れており、立役になってからも『壇浦兜軍記』の「阿古屋琴責めの段」で傾城阿古屋を演じ、箏・三味線・胡弓の三曲を弾きこなし評判となりました。怪談狂言においては、早替わりや舞台の仕掛けといったケレンも得意とし、これらの怪談物は三代目菊五郎以降、音羽屋の芸として受け継がれていくことになります。

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