尾上菊五郎 (4代目)

四代目尾上菊五郎：名優の生涯と芸風

四代目尾上菊五郎（1808年-1860年）は、江戸時代後期を代表する歌舞伎役者の一人です。その華麗な経歴と芸風は、歌舞伎史に大きな足跡を残しました。

彼は大坂で生まれ、初代中村歌六に入門。中村辰蔵、中村歌蝶と名乗り、京坂の舞台で研鑽を積みます。転機は天保2年（1831年）。三代目尾上菊五郎の娘婿となり、尾上菊枝と改名して大坂角の芝居に出演しました。その後、義父である三代目尾上菊五郎と共に江戸へ移り、尾上栄三郎と名乗り、江戸市村座の舞台に立つことになります。

弘化3年（1846年）には、義父の俳名であった「梅幸」を襲名。着実に名声を高めていき、安政2年（1855年）には、ついに四代目尾上菊五郎を襲名するに至ります。

四代目尾上菊五郎の芸風は、優美で気品のある佇まいが特徴でした。年齢を重ねた女性や時代劇の役柄を得意とし、観客を魅了しました。特に、『与話情浮名横櫛』のお富は、彼の代表的な当たり役として知られています。しかし、一方で、悪婆のような役柄にはやや不向きだったようで、落ち着き過ぎた演技や、台詞回しのぎこちなさなどが指摘されたという記録も残っています。

晩年は、妻のお蝶と共に生涯を閉じました。驚くべきことに、菊五郎と妻のお蝶は同日に亡くなったと伝えられています。

彼の後継者として、初代實川延若を養子に迎えています。これは歌舞伎界における家系の継承という点においても重要な出来事でした。

四代目尾上菊五郎は、その洗練された演技と気品ある風貌で、江戸時代後期の歌舞伎界を彩った名優でした。彼の功績は、現在もなお語り継がれ、歌舞伎史に燦然と輝く存在となっています。

参考文献

伊原敏郎　『近世日本演劇史』　早稲田大学出版部、1913年　※国立国会図書館デジタルコレクションに本文あり。
野島寿三郎編　『歌舞伎人名事典』（新訂増補）　日外アソシエーツ、2002年

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