尾上辰之助 (初代)

初代尾上辰之助の生涯と業績

初代尾上辰之助（本名：藤間亨）は1946年10月26日に生まれ、1987年3月28日に他界した著名な歌舞伎役者兼俳優です。屋号は音羽屋で、家紋は四ツ輪に抱き柏、替紋は藤輪に花菱です。また、彼は日本舞踊の藤間流家元としても活動し、五代目藤間勘右衛門を襲名しました。

彼は父である二代目尾上松緑の期待を一身に背負い、歌舞伎界で三之助として知られ、人気を博しました。しかし、彼の生涯は短く、1987年に40歳という若さで急逝しました。彼の死から14年後、長男の二代目尾上辰之助が四代目尾上松緑を襲名し、歌舞伎界に名を刻みました。

幼少期と初舞台

辰之助は二代目尾上松緑の長男として誕生し、幼少期から歌舞伎の世界に触れて育ちました。1952年2月に歌舞伎座で『伽羅先代萩』の鶴千代として初舞台を踏み、この時は初代尾上左近という名前で登場しました。彼の才能は早くから認められ、1965年5月には名前を初代「尾上辰之助」に改名し、さらに歌舞伎界での地位を確立していきました。

芸風と人気

父譲りの豪快で洗練された演技スタイルと、すぐれた口跡を持つ辰之助は、当時の同世代の四代目尾上菊之助や六代目市川新之助らと頻繁に共演し、特に1960年代後半には「三之助」として知られ、多くのファンに支持されました。彼は1972年10月には十代目市川海老蔵や二代目中村吉右衛門との共演で『勧進帳』の弁慶や富樫、義経の役を日替わりで演じ、その名声をさらに高めました。

健康問題と早逝

しかし、辰之助はその才能の裏で深刻な健康問題を抱えていました。1986年2月にはアルコール性肝炎が原因で入院し、以降彼はしばしば病に苦しむことになりました。1987年1月に『毛抜』の粂寺弾正を演じたのが最後の舞台となり、その後入院。1987年3月18日には自宅で倒れ、10日後に肝硬変による合併症で亡くなりました。

人物像とエピソード

辰之助は歌舞伎界屈指の酒豪としても知られ、青年時代にはウイスキーを一瓶空けるほどの飲酒家でしたが、その一方で彼の繊細な性格や父の存在からのプレッシャーもあったようです。酒を用いてこのプレッシャーを和らげていたとされ、結果として彼の健康に影響を及ぼしてしまいました。

彼についての心温まるエピソードは、多くの共演者から語られています。特に1972年の『勧進帳』での彼の優しさや気配りは、共演した二代目中村吉右衛門によって語られ、「気の優しい男」と称されています。このような彼の人柄は、舞台だけでなく、周囲の人々にも深い影響を与えていました。

主な出演作

強烈な存在感と演技力で多くの作品に出演した辰之助は、歌舞伎作品では『蘭平物狂』の伴蘭平や『暗闇の丑松』の丑松、そして『勧進帳』の弁慶などを演じました。また、演劇やテレビドラマでも活躍し、代表作には『オセロー』のイアーゴーや『リチャード三世』のリチャード三世があります。さらにはNHK大河ドラマ『竜馬がゆく』や『草燃える』、『徳川家康』など、多岐にわたる作品に名を連ねました。

彼の業績は後世の歌舞伎界にも影響を与え続けており、名前は永遠にその歴史に刻まれています。

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