尾吹善人

尾吹 善人



尾吹 善人(おぶき よしと、1929年11月12日 - 1995年12月4日)は、昭和から平成初期にかけて活躍した日本の憲法学者です。最終的に千葉大学名誉教授の称号を授与され、また日本大学でも教鞭を執りました。出身地は朝鮮の釜山です。その学問的な功績と教育への貢献が認められ、没後には従三位勲三等旭日中綬章が贈られています。

経歴



尾吹善人は、1953年東北大学法学部法学科を卒業後、同大学法学部で学士助手として研究生活をスタートさせました。その後、1956年から1959年にかけてはアメリカ合衆国ハーバード大学およびミシガン大学に出張し、海外での研究機会を得ました。帰国後、1960年には東北大学法学部の講師に就任しましたが、翌1961年には同大学の教養部へ異動しました。

1963年からは新潟大学人文学部助教授として新たな地での教育・研究に携わります。さらに1965年には千葉大学文理学部に移り助教授となり、1968年には改組された千葉大学人文学部助教授となりました。1971年には同人文学部教授に昇任し、長年にわたり千葉大学で教鞭を執ることとなります。1981年からは千葉大学法経学部の教授を務め、1987年から1989年までは同学部の学部長という要職も務めました。

千葉大学を退職後、1993年には千葉大学名誉教授の称号を得ると同時に、日本大学法学部の教授として迎えられ、後進の指導にあたりました。1995年、その生涯を終えました。

研究と業績



尾吹善人の学問的な業績は多岐にわたりますが、特にドイツの憲法学者カール・シュミットとオーストリアの法哲学者ハンス・ケルゼンに関する研究で大きな功績を残しました。彼の翻訳によるシュミットの『憲法理論』(1972年)やケルゼンの『法と国家の一般理論』(1991年)は、現在でも両思想家の理解に不可欠な名著として広く知られています。また、アメリカ合衆国の連邦憲法における「表現の自由」に関する研究でも高い評価を得ています。

憲法の基礎理論から具体的な解釈論に至るまで、彼の学問的な探求は深遠でした。その広範な業績は、没後12年を経た2007年、東北大学時代の後輩や日本大学時代の教え子たちの手により、論文集『憲法の基礎理論と解釈』(信山社)として編纂・刊行されました。

専門書においても、その記述は平易で分かりやすいと評価されています。主な著書には、概説書として『基礎憲法』(東京法経学院出版、1978年)、『憲法教科書』(木鐸社1993年)などがあります。さらに、『学説判例事典・憲法』(東出版、1970年)、『憲法基本判例』(有斐閣、1986年)、『日本憲法』(木鐸社、1990年)といった、研究者や学生にとって重要な参考書も著しており、いずれも当時の学界水準を平易な言葉で解説している点が特長です。

専門的な著作に加え、尾吹は一般読者向けの啓蒙的なエッセイ集も執筆しました。これには、『憲法徒然草』(三嶺書房、1983年)、『憲法学者の大あくび』(東京法経学院出版、1988年)、『憲法学者の空手チョップ』(東京法経学院出版、1991年)、『寝ても覚めても憲法学者』(ファラオ企画、1992年)などがあります。これらの著作を通じて、難解に思われがちな憲法学の知見を広く一般に伝える努力をしました。

人物と交流



学界においては、シュミット理解を巡り小林直樹教授と論争を交わしたこともあります。また、東北大学で研究生の先輩後輩という間柄であった菅野喜八郎とは、新潟大学や日本大学で同僚として過ごすなど、長年にわたる深い親交がありました。没後に刊行された論文集『憲法の基礎理論と解釈』の編集にあたっては、菅野自身が校正作業に協力し、あとがきを執筆しています。奇しくも、この作業が菅野(2007年7月没)にとって最晩年の仕事となりました。尾吹は、憲法学者清宮四郎の門下生としても知られています。

没後の状況



尾吹善人の没後、彼の著作の一部、特に一般向けのエッセイ集などが古書市場で高騰する状況が見られます。しかし、著作権継承者の情報が不明となっているため、これらの著作を電子書籍などで改めて刊行することが困難な状況が指摘されています。この問題は、2011年に出版社関係者が著作権に関する制度問題を提起する際に、連絡が取れない著作権者の一例として尾吹を挙げる形で明らかにされました。

尾吹善人は、翻訳、専門書、そして一般向けのエッセイを通じて、日本の憲法学の発展と普及に貢献した研究者であり、その業績は今なお多くの人々に影響を与えています。

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