尾平鉱山

尾平鉱山：豊後大野市の錫鉱山と歴史

大分県豊後大野市緒方町に位置する尾平鉱山は、長きにわたり錫を産出してきた歴史を持つ鉱山です。その歴史は古く、1547年に銀鉱脈の存在が確認されたという記録も残されていますが、錫の採掘が本格的に開始されたのは1617年、豊後蒸籠坑の開鉱からとされています。

当初は岡藩の直轄事業として運営され、藩の財政を支える重要な役割を担っていました。特に17世紀半ば、岡藩に寛永通宝の鋳造所が設置された際には、尾平鉱山産の錫が通貨の鋳造に用いられたため、その重要性はさらに高まりました。しかし、当時の技術では産出量の増加は難しく、明治・大正時代においても水力に頼った採掘方法が続けられていました。

転機が訪れたのは1935年、三菱鉱業（現三菱マテリアル）が上田鉱業から鉱山を譲り受けた時です。三菱鉱業は近代的な設備の導入と積極的な探鉱を行い、鉱山の生産性は飛躍的に向上しました。1940年には月産6,000トンの処理能力を持つ新選鉱場が完成し、最盛期には年間5万トンを超える錫を産出するまでに至りました。しかし、この盛況は長くは続きませんでした。高品位鉱脈の枯渇や、他の金属の採算性の悪化により、1954年に閉山を余儀なくされます。

閉山後も、蔵内尾平鉱山として採掘が再開されましたが、1959年には完全に閉山しました。その後、鉱業権は消滅し、長い歴史に幕を閉じました。

環境問題への取り組み

尾平鉱山の活動は、環境問題とも深く関わっています。戦後から指摘されていた鉱害問題への本格的な対策は昭和40年代から開始されました。奥嶽川でのカドミウム検出をきっかけに、下流域の水田の土壌入れ替えや坑廃水の中和処理といった大規模な作業が行われるようになりました。この処理作業は半永久的に継続する必要があり、三菱マテリアル、そして現在は公益財団法人資源環境センターがその責任を担っています。

尾平鉱山と地域

1889年の町村制施行により、尾平鉱山は長谷川村の一部となり、「尾平鉱山」という大字名を与えられました。現在も豊後大野市緒方町尾平鉱山として、その地名は鉱山と深く結びついています。

大分県の石

尾平鉱山は、地質学的な価値も高く評価されています。2016年には、尾平鉱山で産出された斧石が「大分県の石」に選定されました。現在、その標本は豊後大野市歴史民俗資料館で一般公開されています。

交通アクセス

尾平鉱山へは、豊後大野市コミュニティバス長谷川線を利用し、「尾平鉱山」停留所で下車できます。また、県道7号も付近を通っています。

尾平鉱山は、その歴史、産業、そして環境問題という様々な側面を通して、豊後大野市の歴史と自然を語る上で重要な存在と言えるでしょう。

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