尾張国風土記

尾張国風土記について

『尾張国風土記』は、奈良時代に尾張国（現在の愛知県西部）を記録した風土記です。この作品は8世紀初頭に編纂されたとされ、当時の地名や伝承が記載されていたと推測されています。しかし、全編は失われ、わずかに伝わる逸文のみが現存しています。これらの逸文は、『釈日本紀』や『万葉集註釈』など後の文献に引用された部分です。

また、9世紀に成立した『尾州記』という地誌が存在し、これは尾張国司の菅原清公が編纂したと推定されています。『尾州記』と『尾張国風土記』は同じ内容であるという説もあるものの、いずれも散逸しており、現存するのはわずかな部分だけです。さらに、『尾張風土記』という偽書が近世に創作され、これも混同を招いています。元禄11年には『尾張風土記』が編纂されましたが、こちらは元禄風土記と称され、また別のものです。

逸文の内容

現在知られている『尾張国風土記』の逸文には主に以下の内容があります。これらは地域の神社や寺院にまつわる伝承が含まれています。

熱田社

熱田社に関する逸文は、『釈日本紀』に記載されています。この文献によれば、日本武命が東国を巡る途中、尾張連の先祖である宮簀媛の家に宿り、そこで草薙剣が光り輝く様子を目撃し、神体として熱田社が創建されたと伝えられています。この内容は『日本書紀』や『尾張国熱田太神宮縁起』とも類似しており、熱田神宮の研究には重要な資料となっています。

三宅寺

三宅寺に関する逸文は、724年に主政であった三宅麻佐の建立説が含まれたもので、『万葉集註釈』に記載されています。尾張国の愛知郡日部郷にあったこの寺は、地域の歴史を知る上で貴重な存在です。

吾縵郷

『釈日本紀』に記載されている吾縵郷については、阿豆良神社の由来が伝わります。垂仁天皇の子が言葉を発せられなかった際、皇后の夢に神が現れ、神社が建てられることになった逸話が語られています。この伝承は地域の文化を知る手掛かりとなります。

川嶋社

川嶋社に関する逸文は、『万葉集註釈』に見られ、聖武天皇の治世に神が白鹿に姿を変えて現れる逸話が伝えられています。

葉栗尼寺

7世紀後半に建立された光明寺に関する逸話が、葉栗尼寺として知られる寺院に関するものです。地域の信仰が伺える重要なデータです。

その他の逸文

藤木田、張田邑、宇夫須那社、大呉里など、さらに多くの地名や神社に関する逸話が含まれています。これらは地域の歴史や信仰の深さを示す貴重な資料となるでしょう。

まとめ

『尾張国風土記』は、現代の愛知県を理解する上での貴重な文献です。失われた部分も多いですが、残された逸文からは地域の歴史や文化、信仰に関する重要な知見が得られます。今後もこれらの文献を通じて、尾張国の歴史を紐解いていくことが重要です。

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