尾辻吉兼

尾辻吉兼

尾辻吉兼（おつじ よしかね）は、1950年2月に生を受け、2005年7月25日にこの世を去った日本の政治家である。沖縄県の最西端に位置する与那国町において、第16代町長としてその任にあたった人物として知られている。

沖縄県八重山郡与那国町久部良の出身で、地元の琉球政府立沖縄水産高等学校を卒業した。政界に進む前は、地域の産業を支えるべく、与那国町漁業協同組合の組合長として活動した。この経験を通じて、島の基幹産業と住民生活に深く根ざした視点を培ったと推察される。

1982年より町議会議員として政治の舞台に立ち、1999年までの17年間、通算5期にわたって議員を務めた。この期間に町政の様々な側面に関わり、政治家としての経験と地盤を固めた。

1999年4月25日に実施された与那国町長選挙に、自由民主党の公認候補として出馬し、初当選を果たした。これにより、4年間続いた革新町政から保守町政への回帰を実現させた。町長就任後、尾辻町長は町の将来を見据え、近隣の石垣市や竹富町との市町村合併による広域行政の実現を重要な課題として推進した。合併協議会への参加など、具体的な手続きを進めたが、この計画は容易には進まなかった。2004年10月16日に与那国町で行われた住民投票では、合併に反対する票が賛成票を大きく上回る結果となり、町民の意思として合併への否定的な意向が示された。これを受け、与那国町は法定合併協議会から撤退せざるを得なくなり、合併計画は頓挫した。

2003年4月27日の町長選挙で再選を果たし、2期目の町政を担うこととなった。この2期目の任期中、尾辻町長が特に問題意識を持って取り組んだのは、与那国島を東西に横断する形となっている日本と台湾の間の防空識別圏の境界線に関する問題であった。島の中央を通過している現状を島の安全保障や住民生活上の課題と捉え、その見直しを強く訴えた。2005年4月には、当時の防衛庁長官、大野功統氏に対して、この識別圏の境界線について台湾側と協議し、見直しを働きかけるよう直接要請を行った。これは、国境の島である与那国島が抱える独特の地理的・政治的課題に対する尾辻氏の積極的な姿勢を示すものであった。

町長として島の発展と課題解決に尽力していた尾辻氏であったが、任期中に病に倒れた。2005年7月14日の夜に意識不明となり、県立八重山病院へ入院。その後治療が続けられたが、同年7月25日午後3時23分、けいれん重積による低酸素血症が原因で惜しくも逝去した。享年56（満55歳）であった。

尾辻吉兼氏は、漁業組合長、そして町議会議員、町長として、長年にわたり与那国島の振興に貢献した政治家である。特に、合併問題への取り組みや、日台間の防空識別圏といった国境の島ならではの課題に対し、島のリーダーとして積極的に声を上げ、解決に向けて行動したその功績は、与那国町の歴史において特筆されるべきものである。

もう一度検索