山の神峠 (富山県)

山の神峠（やまのかみとうげ）は、富山県南砺市に位置する標高890mの峠です。南砺市の小谷郷地区と利賀村阿別当地区の境界付近にあり、その名は古くから伝わる伝説に由来します。

峠の名前の由来については、興味深い伝承が残されています。峠の頂付近に立つ見上げるような大きなスギの木に、神通力を持つとされる天狗が棲みついていたと伝えられています。人々はこの天狗を畏れ敬い、「山の神」として崇拝するようになりました。この信仰が、そのまま峠の名前として定着したとされています。

かつて、現在の利賀川沿いに車道が整備される以前は、この山の神峠が人々の往来において非常に重要な役割を果たしていました。特に、利賀村から越中井波（現在の南砺市井波地区）に至る主要な街道の一部をなしており、険しい山道ながら多くの人々によって利用されていました。この街道は、山の神峠を越えた後、平村（現在の南砺市平地区）で一夜を過ごし、さらに細尾峠を越えて井波へと向かう、二日間の行程を要するものでした。このことからも、当時の交通がいかに困難であり、またこの峠道が地域の経済や文化の交流にとって不可欠な存在であったかが伺えます。

現代において、峠を越える交通の主体は、その直下を貫く二つのトンネルに移っています。一つは大規模林道大山福光線の一部である新山の神トンネル、もう一つは旧道に位置するかつての山の神トンネルです。これらのトンネルの開通により、峠道を直接越える必要性は減りましたが、峠自体は静かにその歴史と自然を留めています。

山の神峠周辺は、豊かな自然環境が特徴であり、約12.5ヘクタールの範囲が「山の神自然環境保全地域」に指定され、保護されています。この地域は、かつて麓の阿別当地区を冬期の雪崩から守るための「雪持ち林」として、地域の人々によって大切に守られてきた歴史があります。現在も、その名残として広範囲にわたってブナ、トチノキ、ミズナラといった多様な落葉広葉樹を中心とする天然林が広がっており、四季折々に美しい景観を見せるとともに、多様な生態系を育んでいます。

なお、日本国内には同名の峠が複数存在しており、例えば岡山県内を通る国道484号にも「山の神峠」という名称の峠があります。本項で述べているのは富山県南砺市の山の神峠です。

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