山下俊一

山下俊一：被爆二世から世界的な放射線医学の専門家へ

山下俊一氏は、1952年長崎県長崎市生まれの医学者であり医師です。長崎大学医学部を卒業後、同大学病院や県立多良見成人病センターで研鑽を積み、教授へと昇進。その後、世界保健機関（WHO）放射線プログラム専門科学官や福島県立医科大学副学長などを歴任しました。現在は、量子科学技術研究開発機構高度被ばく医療センターセンター長を務めています。

深い信仰と被爆体験

山下氏は、カトリック信者として敬虔な信仰生活を送っています。隠れキリシタンの子孫である父方の家系を受け継ぎ、幼少期はカトリック城山教会で育ちました。聖アウグスチノ修道会の司祭やシスターたちから深い愛情を受け、信仰の土台を築いたと語っています。

しかし、山下氏は両親が被爆した被爆二世でもあります。母親は16歳の時に原爆に遭遇し、親戚は多くが犠牲になりました。この被爆体験が、医師としての山下氏の活動に大きな影響を与えたことは間違いありません。子供の頃からアルベルト・シュヴァイツァーや永井隆を尊敬し、「生命への畏敬」と「如己愛人」を座右の銘としています。

チェルノブイリとセミパラチンスクでの活動

1991年から約20年間、山下氏はチェルノブイリ原子力発電所事故の健康調査と甲状腺がんの子どもの診療に従事しました。チェルノブイリ周辺地域には100回以上訪問し、現地の人々と深く関わりました。特に、小児甲状腺がんの早期発見と治療に貢献し、その経験から放射能が胎児に及ぼす影響の深刻さを痛感しました。

1995年からは、カザフスタン共和国セミパラチンスク核実験場周辺の調査活動にも参画。JICAのプロジェクトにも携わり、核実験の影響を受けた人々への医療支援を行いました。これらの活動を通して、山下氏は放射線医学の第一人者としての地位を確立しました。

福島第一原発事故への対応

2011年福島第一原発事故発生後、山下氏は福島県放射線健康リスク管理アドバイザーに就任。科学的知見に基づいた情報発信と、県民との対話を通して、不安の払拭に尽力しました。

事故直後には、安定ヨウ素剤の必要性や避難の是非について、独自の判断に基づいた発言を行いました。これには賛否両論があり、激しい批判にさらされることとなりました。しかし、山下氏は一貫して科学的根拠に基づいた説明を行い、被曝による健康被害の深刻さを訴え続けました。

医療被曝の低減化

WHOでの活動を通して、山下氏は医療被曝の問題にも取り組んでいます。特に、日本におけるCT検査の過剰な使用を懸念し、被曝量低減のためのガイドライン作成の必要性を訴えました。また、PET検査の癌検診への過剰な利用についても問題点を指摘しています。

国際協力と多様な活動

山下氏は、日本国内だけでなく、ベラルーシや台湾など諸外国との医療協力にも積極的に取り組んでいます。ベラルーシでは、ミンスクの教会や著名な詩人と交流し、文化交流にも貢献しました。台湾では、元総統李登輝氏と会談するなど、国際的なネットワークを構築しています。

信仰と社会貢献

カトリック信者として、山下氏は日本カトリック医師会にも深く関わってきました。被爆者医療や平和への取り組みを通して、社会貢献活動を積極的に行っています。創価学会や公明党との交流もあり、様々な立場の人々と協力関係を築きながら活動しています。

まとめ

山下俊一氏は、被爆二世という経験、深い信仰、そして世界的な放射線医学の専門家としての知見を背景に、国際的な舞台で活躍する人物です。被爆者医療、放射線医学、そして原子力政策という複雑な問題に、科学的根拠に基づいた姿勢で取り組み続けています。その活動は、世界中の人々に大きな影響を与え続けていると言えるでしょう。彼の功績と活動の背景、そして、その活動に対する賛否両論を理解することは、原子力災害や放射線医学、そして、リスクコミュニケーションという重要なテーマを考える上で不可欠です。

もう一度検索