山下威士

山下 威士（やました たけし）

日本の憲法学者、法哲学者であり、新潟大学名誉教授。1941年11月6日、広島県広島市に生を受ける。

経歴と思想形成

故郷である広島市で、1945年8月の原子爆弾投下を経験したことは、その後の法学者としての思想形成に看過できない影響を与えた。青春時代を過ごした広島の地で、1960年に広島県立広島観音高等学校を卒業する。その後、東京へ移り、1964年に中央大学法学部を卒業。さらに同大学院法学研究科に進み、1966年に修士課程を修了した。博士課程は早稲田大学大学院法学研究科公法学専攻に進むが、1970年に中途退学している。

学術的な研鑽を積む中で、学部・修士課程では川添利幸氏、博士課程では有倉遼吉氏から多くを学んだ。特に、後に学位論文の主査を務めた浦田賢治氏からは深い薫陶を受けたとされる。専門分野においては、ドイツの公法学者カール・シュミットに関する研究に深く取り組み、その成果として1987年、「カール・シュミット研究 危機政府と保守革命運動」と題した論文により、早稲田大学から法学博士の学位を授与された。

研究・教育活動

研究者としての第一歩は、1970年に埼玉大学教養部講師（社会思想史担当）として踏み出した。この時期には、中央大学法学部通信教育課程のインストラクターも兼務している。埼玉大学では1971年に教養部助教授に昇任し、教育・研究に携わった。

1982年からは新潟大学へ移り、法学部教授として憲法学および比較憲法学の研究・教育に従事した。新潟大学では教育・研究活動に加え、大学運営においても重要な役割を担った。1993年には大学院現代社会文化研究科教授、1995年には法学部長、2000年には学長補佐といった要職を歴任した。さらに、2004年には新潟大学大学院実務法学研究科（法科大学院）の初代研究科長に就任し、法学概論や正義論などの科目を担当した。2007年に新潟大学を定年退官し、名誉教授の称号を受けた。

新潟大学退官後も、大宮法科大学院大学の客員講師として法哲学を担当したが、同大学の廃校に伴い2015年に退職した。

著書・業績

長年の研究活動を通じて、多数の著作を発表している。特に、前述の学位論文を基にした『カール・シュミット研究 危機政府と保守革命運動』（南窓社、1986年）や、『憲法学と憲法』（南窓社、1987年）は代表的な著作として挙げられる。他にも、共編著として『法と市民 2』（瀬川善信ほか共著、南窓社、1979年）、妻である山下泰子氏や根森健氏との共著による『平和と人権の法』（南窓社、1980年）、大学の教科書として編著を務めた『法学』（尚学社、1983年）や『大学生のヤリ方』（尚学社、1997年）などがある。さらに、川添利幸氏との共編による『憲法詳論』（尚学社、1989年）も重要な業績の一つである。

翻訳活動も行っており、陶春芳、蒋永萍編『中国の女性 社会的地位の調査報告』（山下泰子氏と共監訳、尚学社、1995年）や、歴史的なクーデタ事件を扱った『クーデタを裁く 1932年7月20日事件法廷記録』（訳編、尚学社、2003年）などがある。

山下威士氏の還暦を記念して、氏の多岐にわたる業績とドイツ公法理論の日本における受容・展開に関する研究論文を収めた記念論文集『ドイツ公法理論の受容と展開 山下威士先生還暦記念』（DAS研究会編、尚学社、2004年）が刊行されている。

人物

親族には、同じく法学者であり共著もある妻の山下泰子氏、そしてデザイナーとして知られる実兄の山下勇三氏がいる。

長年の学術研究と教育に対する貢献が認められ、2020年秋の叙勲において瑞宝中綬章を受章した。

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