山元恵一

山元恵一：戦後沖縄美術を彩ったシュルレアリスムの画家

1913年、沖縄県那覇市に生まれた山元恵一は、戦後沖縄の美術史において重要な役割を果たした洋画家です。警察官の父を持つ彼は、沖縄県立第二中学校（現・沖縄県立那覇高等学校）時代から美術に才能を示し、比嘉景常という美術教師から指導を受けました。卒業後、上京して画家の道を志しますが、東京美術学校受験は失敗に終わります。それでも彼は諦めず、川端画学校で研鑽を積み、デッサン技術を磨きました。

1933年、山元は東京美術学校油絵科に入学。そこで彼はシュルレアリスムという芸術運動に深く関わります。シュルレアリスムグループ〈貌〉に参加し、独特の表現方法を学びました。しかし、彼の画家としての歩みは、戦争によって中断されます。1941年には比嘉景常の後任として母校の美術教師となり、1944年には沖縄戦に徴用されました。戦場で体験したであろう凄絶な現実が、彼の後の作品に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。

戦後、山元は琉球列島米国軍政府の統治下で組織された沖縄諮詢会文化部の芸術技官として活動を開始します。1948年には、首里儀保のニシムイ美術村にアトリエを構え、創作活動に専念しました。1949年には『沖縄ヘラルド』紙の記者にもなり、多方面で才能を発揮しました。同年、第1回沖縄美術展（沖展）の審査員を務めるなど、沖縄の美術界で重要な役割を果たしました。

1951年、山元恵一の転機となる出来事が起こります。『貴方を愛する時と憎む時』という作品が、第3回沖展で首位を獲得したのです。この作品は、戦後沖縄美術におけるシュルレアリスムの先駆けとして高く評価されました。この成功をきっかけに、彼はアブストラクトなど、より前衛的な芸術表現に挑戦していきます。1952年には琉球大学美術工芸科の助教授に就任し、後進の育成にも力を注ぎました。1954年には「モダンアート展」（東京都美術館）に入選するなど、彼の作品は本土でも認められるようになりました。

大城立裕の新聞小説『琉球処分』（『琉球新報』連載）の挿絵も手掛けた山元は、多様な表現方法で才能を発揮しました。晩年には、初期に傾倒したシュルレアリスムへと回帰し、牛骨をモチーフにした作品を多く制作しました。これらの作品には、沖縄戦や戦後の混乱期、そして激動の時代を生きた彼の魂が投影されているように思えます。1977年、64歳の年齢でその生涯を閉じました。

山元恵一の芸術は、シュルレアリスムを基調としながらも、沖縄という独特の土地柄や、戦争という過酷な体験が色濃く反映されています。彼の作品は、単なる絵画としてだけでなく、戦後沖縄の複雑な歴史と、その中で懸命に生きた人々の証として、後世に語り継がれるべき貴重なものです。彼の生涯と作品は、沖縄の美術史、ひいては日本の美術史において、重要な一ページを刻んでいます。

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