山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故

山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故の概要

2009年10月、山口県山口市で、生後2ヶ月の女児が硬膜下血腫により死亡するという痛ましい事故が発生しました。この事故は、ホメオパシーに基づく代替医療が原因であるとされています。

2009年8月、同市在住の女性が自宅で長女を出産しました。その際、担当した助産師は「ホメオパシー医学協会」に所属しており、ビタミンKの代わりに、同協会が「ビタミンKと同程度の効果を持つ」と主張する砂糖（レメディ）を女児に与えていました。本来、新生児にはビタミンKが欠乏しやすく、ビタミンKの投与は必須です。しかし、助産師はそれを怠り、さらに母子手帳には「ビタミンK投与」と虚偽の記載をしていたことが判明しました。その結果、女児はビタミンK欠乏性出血症を発症し、硬膜下血腫を引き起こして死亡しました。

損害賠償訴訟と和解

2010年5月、母親は、助産師がビタミンK2シロップを投与しなかったことが長女の死因であるとして、約5600万円の損害賠償を求める訴訟を山口地裁に提訴しました。同年12月21日、両者の間で和解が成立しましたが、和解内容については公表されていません。

ビタミンK投与の重要性

新生児は、腸内細菌叢が未発達でビタミンKを十分に産生できない上、母乳中のビタミンK含有量も少ないため、常にビタミンK不足のリスクにさらされています。ビタミンKが不足すると、血液凝固に必要な因子が正常に産生できず、出血傾向を引き起こします。特に、頭蓋内出血は重篤な結果を招きやすく、死亡や重い障害の原因となります。そのため、厚生労働省は、新生児に対して出生後1ヶ月以内に計3回のビタミンK経口投与を強く推奨しており、母乳育児の場合、新生児メレナの発症確率は2000人に1人程度とされています。

近年では、日本小児科学会らが合計13回内服させる方法（3か月法）で統一すべきことを提言しており、より徹底した予防策が求められています。

事件の影響と関係団体の反応

この事件は、大手マスコミによって広く報道され、社会に大きな衝撃を与えました。事件を受けて、助産師が所属していた日本助産師会は2010年8月26日に「ホメオパシーを医療に代わる方法として助産師が使用・推奨しない」という見解を示しました。また、ホメオパシー医学協会の会長である由井寅子は、自身の著書で事件を契機としたホメオパシー批判に反発し、遺族のプライバシーに関する誤解を招く記述をしました。

日本医師会の国民生活安全対策委員会は、この事件を「助産師が適切な医療へのアクセスを阻害し、結果的に医療ネグレクトを生じさせた」と結論付けました。2022年には、再び助産師がホメオパシーを勧める事例が見られるようになったとして、日本助産師会は、ホメオパシーを医療の代替として使用すべきではないという方針を改めて表明しています。

この事件は、代替医療の危険性を強く示唆するものであり、医療におけるエビデンスの重要性を改めて認識させる出来事となりました。

脚注

新生児メレナ：新生児のビタミンK欠乏性出血症の旧称。

関連項目

ホメオパシー
由井寅子

外部リンク

日本ホメオパシー医学協会

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