山口源

山口源：抽象木版画のパイオニア

山口源（1896-1976）は、20世紀を代表する日本の版画家であり、装丁家です。静岡県に生まれ、台湾で青年期を過ごした後、東京で版画制作を始めました。流木や自然素材を用いた独特の抽象表現で知られ、恩地孝四郎と共に日本の抽象木版画を牽引した先駆者として高く評価されています。

台湾での醸造業から版画への転身

1896年、静岡県富士市に生まれた山口源は、1914年に一家で台湾へ移住し、父の醸造業を手伝いました。しかし、病気療養中に版画家・藤森静雄と出会い、版画の世界に足を踏み入れます。その後、東京で恩地孝四郎に師事し、創作版画協会展などに出品。才能を開花させていきました。

一木会と日本版画協会

1939年には、恩地孝四郎の自宅で版画研究会「一木会」を設立し、関野凖一郎と共に中心メンバーとして活動しました。1943年には日本版画協会会員となり、版画界における地位を確立します。1944年には結婚し、妻の故郷である静岡県沼津市江の浦に疎開。終生、江の浦を拠点に制作を続けました。

戦後の活躍と国際的な評価

戦後は、日本版画協会展、国画会展、そして数々の国際版画展に出品し、その独特の抽象木版画は高く評価されました。1957年にはリュブリャナ国際版画ビエンナーレで『芝生』が優秀賞、1958年にはルガーノ国際版画ビエンナーレで『能役者』がグランプリを受賞。国際版画祭でグランプリを受賞した最初の日本人として、世界的な注目を集めました。

装丁家としての顔

版画制作のみならず、装丁家としても活躍しました。林芙美子の『うず潮』、井上靖の『風林火山』『敦煌』『楊貴妃伝』、松本清張の『柳生一族』など、多くの書籍の装丁を手がけ、その高いデザインセンスを発揮しています。

晩年とその後

晩年は静岡県版画協会会長などを務め、後進の育成にも尽力しました。1976年、79歳で沼津市江の浦にて亡くなりました。没後もその功績は高く評価され、1977年には山口源版画保存協会（後に「山口源の会」と改称）が設立されました。1983年には沼津市が「山口源賞」を制定し、現在も優れた版画家を表彰しています。1998年には静岡県立美術館で生誕100年記念回顧展が開催され、多くの作品が展示されました。江の浦のアトリエ跡には「山口源の碑」が建立されています。

山口源大賞受賞者一覧

山口源賞の中でも特に栄誉ある「山口源大賞」の受賞者一覧は下記の通りです。

1983年 第1回 黒崎彰
1985年 第2回 中林忠良
1987年 第3回 吉田穂高
1989年 第4回 吉原英雄
1991年 第5回 日和崎尊夫
1993年 第6回 野田哲也
1995年 第7回 井田照一
1997年 第8回 加納光於
1999年 第9回 李禹煥
2001年 第10回 柳澤紀子
2003年 第11回 磯見輝夫
2005年 第12回 池田良二
2007年 第13回 小林敬生
2009年 第14回 星野美智子
2011年 第15回 靉嘔
2013年 第16回 深沢幸雄
* 2015年 第17回 天野純治

山口源は、独自の表現方法で日本の抽象木版画に大きな足跡を残した重要な作家です。彼の作品は、現在も多くの人の心を捉え続けています。

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