山口茂 (経済学者)

山口茂：経済学の巨星、その生涯と業績

山口茂（1893年 3月5日 - 1974年 8月21日）は、日本の経済学者であり、金融論、経済学史を専門としていました。一橋大学の名誉教授であり、教育者としても多くの学生を指導しました。

生い立ちと教育

山口茂は、神奈川県高座郡大和村（現在の神奈川県大和市）の地主の家に生まれました。暁星中学校を経て、1917年に東京高等商業学校（現在の一橋大学）本科を卒業。さらに1919年には同校専攻部を卒業しました。1921年からは、東京商科大学（現在の一橋大学）附属商学部専門部で助教授を務め、三浦新七、上田貞次郎のプロゼミに参加し、研究者としての基礎を築きました。

1922年からは銀行論の講義を担当し、佐野善作、高垣寅次郎の指導を受け、金融論への関心を深めていきました。1925年からは、イギリス、ドイツ帝国、フランス共和国、アメリカ合衆国へ留学し、各国の経済学を研究。1927年に帰国後は東京商科大学助教授を兼任し、教育と研究の両面で活躍しました。

教育者としての活動

1929年から1941年まで横浜専門学校（現在の神奈川大学）で非常勤講師を兼任。1936年には東京商科大学教授、東京商科大学附属商学部専門部教授に就任しました。1941年には東京商科大学附属商業教員養成所主事、東京商科大学附属商学専門部主事となり、後進の育成に尽力しました。1940年には経済学博士号を取得しています。

太平洋戦争中、1944年に兼松講堂で開かれた学徒出陣の壮行会では、軍国主義に反する発言をし、学生たちの命を案じました。「諸君、どうか死なないでくれ」「戦争に勝っても負けても、国家が直ちに必要とするのは諸君なのだ」と述べ、学生たちに生き延びることを強く促しました。この発言は、当時の社会情勢を考えると非常に勇気あるものでした。

戦後の活動

第二次世界大戦後、1946年には連合国軍最高司令官総司令部の勧告を受けて大蔵省に設置された国家資力専門委員会会長に就任。国民所得計算の検討など、戦後復興期の経済政策に貢献しました。1949年には東京商科大学附属商学専門部長、東京商科大学附属商業教員養成所長を歴任。1950年には一橋大学附属図書館長を務めました。同年、日本基督教団国立教会で村田四郎より洗礼を受けました。

1951年には一橋大学商学部長・教授に就任し、1953年には一橋大学長事務代理を務めました。1954年に依願退官し、一橋大学名誉教授となり、神奈川大学法経学部教授に就任。1955年には金利調整審議会委員を務めました。その後、神奈川大学法経学部長、経済学部長、学校法人神奈川大学理事などを歴任し、教育と大学運営に尽力しました。

1966年には、ジャン＝バティスト・セイの自筆の書き込みを含む洋書1316冊と和書1078冊を神奈川大学図書館に寄贈し、山口文庫として収蔵されました。特に、セイの書き込みがあるトマス・ロバート・マルサスからの献呈本『経済学の諸定義』と『経済学および課税の原理』の2冊は、一橋大学社会科学古典資料センターに収蔵され、貴重な資料として保存されています。

受賞と晩年

教育や私立大学振興への貢献が評価され、1967年には勲三等旭日中綬章を受章しました。1969年には神奈川大学を退職。1974年に逝去し、従三位を追贈されました。

研究と業績

山口茂は、金融論、経済学史を専門とし、多くの著書を執筆しました。その中には、『流通經濟の貨幣的機構』『物價とインフレーション』『セイ『経済学』』『銀行論』などがあり、経済学研究に多大な貢献をしました。

指導した学生には、小泉明（第7代一橋大学学長）、長澤惟恭（一橋大学名誉教授）、吉川光治（青山学院大学名誉教授）、堀地史郎（東京海上あんしん生命保険初代社長）などがおり、多くの人材を育成しました。

主な著書

『流通經濟の貨幣的機構 : 正統派經濟學を中心とする一般物價水準の理論的研究』巖松堂書店 1939年
『物價とインフレーション』日本評論社 1939年
『物價理論と統制經濟』東京銀行集會所 1942年
『價格水準の基本理論』巌松堂 1943年
『セイ『経済学』』春秋社 1948年
『價格水準の基本理論』巌松堂書店 1948年
『經濟學 : 經濟・財政・金融の綜合としての』新紀元社 1951年
『銀行論 3版』新紀元社 1954年
『物価』弘道館 1954年
『国際金融』春秋社 1957年
『経済循環と金融市場』東洋経済新報社 1963年
『金融の経済学 : 金融・財政と国民経済の基本関係』広文社 1966年
* 『恐慌史概説 : 金融理論における均衡と不均衡増補版』勁草書房 1976年

山口茂は、その学識と人柄で多くの人々に影響を与え、日本の経済学の発展に大きく貢献した人物として、その名前は歴史に刻まれています。

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