山吉盛侍

山吉盛侍：赤穂事件と上杉家仕官の生涯

山吉盛侍は、江戸時代前期から中期にかけて活躍した武士です。越後国三条城主を務めた上杉謙信の家臣を祖とする家系に生まれ、のちに吉良義央に仕えることとなります。幼名は新八郎。米沢藩士・深澤氏からの養子である祖父と、山吉氏本流に近い人物ではなかったとされる養父・山吉源左衛門盛親を持ちます。

寛文11年（1671年）、米沢藩主・上杉氏の家臣である山吉七郎左衛門盛俊の子として誕生しました。母は山田九右衛門盛政の娘です。父が死去した天和4年（1684年）以降は、兄・権之丞盛富が家督を継ぎました。

転機は元禄5年（1692年）に訪れます。上杉綱憲の次男で吉良氏に養子入りしていた吉良義周付きの小姓に任じられ、江戸の吉良邸へと入りました。30石5人扶持を与えられ、吉良家の一員として仕えることになります。元禄8年（1695年）には、喜連川氏の騒動の鎮圧に貢献しました。

山吉盛侍の名が歴史に刻まれるのは、元禄15年（1702年）12月14日の赤穂浪士による吉良邸討ち入りです。『大河内文書』によれば、彼は討ち入りにおいて吉良家臣の中でも特に活躍しました。襲撃を受け、長屋から飛び出した際に浪士の槍を目の当たりにし、部屋に戻って脇差を取り、3人の浪士と激戦を繰り広げます。1人を池に突き落とし、1人を縁側に斬り伏せますが、その後ろから槍で襲われ、別の浪士に顔面を深く切りつけられ倒れます。しかし、一命を取り留め、負傷した顔には大きな傷跡が残りました。この傷跡を隠すため、髭を蓄えることを許されたとも伝えられています。

吉良家が改易され、義周が諏訪高島藩預かりとなると、盛侍は左右田孫兵衛と共に高島城へ同行し、義周の死まで仕えました。高島藩では、義周は「左兵衛様」と敬意を払われ、南之丸に新たな住居が与えられました。中小姓、徒士、小者などの家臣が配置され、飯島伊右衛門の娘が身の回りの世話を担当しました。記録によると、炬燵が用意され、食事も二汁五菜と、細やかな配慮がなされていたことがわかります。

宝永3年（1706年）1月、義周が亡くなると、盛侍は米沢へ戻り、6月9日から5石3人扶持で再び上杉家に仕官しました。その後、着実に地位を上げていき、享保5年（1720年）6月5日には勘定頭となり50石、元文4年（1739年）1月には三十挺手槍頭に就任し150石が加増され、合計200石を領しました。寛保4年（1744年）2月8日には三十人頭に任命されます。宝暦2年（1752年）2月11日には隠居し、家督を子・伊八郎盛起に譲りました。

そして宝暦3年（1753年）7月28日、83年の生涯に幕を閉じました。

山吉盛侍の子孫は明治時代にも活躍しました。福島県県令を務めた山吉盛典は、暗殺直前の大久保利通に面会した人物としても知られ、治水事業に貢献した開明的な人物でした。

山吉盛侍の生涯は、赤穂事件という激動の時代を生き抜き、主君に忠実に仕え続けた武士の物語であり、その後の活躍や子孫の繁栄まで含め、歴史の中に鮮やかな足跡を残しています。彼の物語は、小説やドラマなど、様々な作品にも題材として取り上げられています。小説では『妖笛』（皆川博子）、『義周と新八郎の場合』（岳真也）などがあり、演じた俳優には峰岸徹、村上弘明、近童弐吉、中根徹らがいます。

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