山峡の湯村

山峡の湯村

松本清張の短編小説『山峡の湯村』は、1975年2月に『オール讀物』に発表された作品です。この物語は、1977年に中短編集『馬を売る女』に収録され、文藝春秋から出刊されました。また、1992年にはテレビドラマとしても制作され、多くの視聴者に親しまれました。

あらすじ

物語の舞台は、飛騨地方の小坂川上流に位置する温泉宿「谷屋旅館」です。この宿に逗留するのは、かつて人気を誇った時代小説作家、小藤素風です。彼は既に世間から忘れ去られており、三年前にかつての愛読者、梅田勇作の誘いでこの地にやってきました。現在彼は、谷屋旅館の女中・お元の世話を受けています。お元は勇作の婚約者であり、彼女は献身的に素風の面倒を見る立場にあります。

一方、国文科の教師である太田二郎は、近くの「紅葉屋旅館」で静養を図っています。ある日、女中の安子から小藤素風が谷屋旅館にいることを知ります。太田は興味を持ち、宿からバスで10分かかる人造ダム湖「仙竜湖」に釣りに出かけます。そこで素風と出会い、声をかけますが、素風は湖の水面を見つめながら「湖底に沈んでいるのは家ばかりじゃねえ」と謎めいた言葉を残します。

この湖には、奇妙な噂が立っており、特に夜明けの頃に不気味な鳥の鳴き声が響くというのです。これらの出来事が、物語の核心にどのように影響を及ぼすのかが、読者の興味を引きつけます。

テレビドラマ化

1992年には、日本テレビ系列で「松本清張スペシャル・山峡の湯村」としてテレビドラマ化されました。このドラマは、「火曜サスペンス劇場」枠で放映され、視聴率は19.6%を記録しました。キャストには、主役の太田二郎役を務めた古谷一行をはじめ、梅田勇作や小藤素風といった重要なキャラクターを演じる俳優たちが揃い、物語の緊張感を引き立てました。

主なキャストは以下の通りです：

• - 太田二郎（古谷一行） - 谷屋旅館で静養する東京の教師
• - 内海元子（姿晴香） - 梅田勇作の婚約者
• - 梅田栄子（中島ゆたか） - 谷屋旅館の女将
• - 小藤素風（織本順吉） - 谷屋旅館に逗留する老作家
• - 太田杏子（朝加真由美） - 太田の妻
• - 梅田敏治（江戸家猫八） - 谷屋旅館の主人

制作背景

この作品の脚本は石松愛弘が手掛け、監督には嶋村正敏が起用されました。音楽は大谷和夫が担当し、ドラマ全体の雰囲気をさらに際立たせています。ロケーションは、下呂温泉や宮ヶ瀬ダムなど、実際の美しい風景を背景に撮影され、視聴者にリアリティを提供しました。

松本清張の作品は、その精緻な人物描写と緊張感溢れるストーリー展開によって、時代を超えて多くの人々に愛され続けています。『山峡の湯村』もまた、彼の才能が光る一作であり、様々な解釈を引き起こす作品として、今後も語り継がれていくことでしょう。

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