山崎正 (作詞家)

山崎正（やまざき ただし）は、本名松浦正典として1916年（大正5年）8月20日にこの世に生を受けた日本の作詞家です。戦後の歌謡界において、空前のヒットを記録した「お富さん」をはじめ、数多くの心に残る楽曲を生み出しました。

生涯

東京市亀戸町で誕生した後、幼い頃に母親が再婚したのを機に、一家は群馬県高崎市へと移り住みました。旧制高崎中学を卒業後、東京美術学校へと進学。作詞の道に進むきっかけとなったのは、高橋掬太郎に師事したことです。この頃、歌謡同人誌「幌馬車」の一員としても活動していました。

しかし、時代は戦争へと向かいます。1937年（昭和12年）には日中戦争に伴い応召し、高崎歩兵第15連隊に入営します。同年9月には病を患い、現地の野戦病院に収容。翌月には満州チチハル陸軍病院へ転院することになりました。入院中にも作詞活動は続けられ、その作品「踊る支那兵」は「幌馬車」に発表されています。

帰還後、前橋市の料亭「鳥辰」の長女ふみ子氏を妻に迎えます。そして1942年（昭和17年）、「暁の門出」「茶作り次郎長」「軍歌千里」といった作品がレコード化され、プロの作詞家として第一歩を踏み出しました。しかし、1944年（昭和19年）には再び兵役に服すこととなり、内地で終戦を迎えています（最終階級は兵長）。

戦後、山崎氏は日本作歌者協会の会員に推挙されます。1951年（昭和26年）には単身で上京し、文化放送に籍を置きました。ここではラジオCMソングなどを手掛けながら作詞活動を精力的に続けます。そして、1954年（昭和29年）にキングレコードから発売された「お富さん」が、山崎氏の運命を大きく変えることになります。

この曲は渡久地政信が作曲し、春日八郎が歌唱を担当しました。発表されるやいなや、国民的な大ヒットとなり、戦後日本の復興を象徴する一曲として多くの人々に歌われました。「お富さん」の成功は、春日八郎のNHK紅白歌合戦初出場という栄誉に繋がるとともに、松竹によって嵯峨美智子主演で映画化（「お富と切られ与三郎」）されるなど、大きな社会現象を巻き起こしました。

「お富さん」以外にも、山口俊郎が編曲し、三橋美智也が歌った「酒の苦さよ」もヒットを記録。山崎正は人気作詞家としての地位を不動のものとしました。この頃から、「歌で別れる港町」「小雨がぽっとん」など、抒情豊かな歌謡曲を次々と生み出しています。また、故郷の地である前橋にゆかりの深い「前橋音頭」も1956年（昭和31年）に手掛けました。

1964年（昭和39年）には、社団法人日本作詩家協会の理事に就任し、歌謡界の発展にも尽力しました。また、前橋市石川町に「山崎歌謡教室」を開設し、次世代の作詞家の育成にも情熱を注ぎました。しかし、更なる活躍が期待される中、1968年（昭和43年）1月19日に51歳という若さで惜しまれながらこの世を去りました。

代表曲

酒の苦さよ（三橋美智也）
お富さん（春日八郎）
歌で別れる港町（若原一郎）
小雨がぽっとん（石井千恵）
前橋音頭
おもかげ酒場（水戸光一）
夢みる星（新川二郎）
涙をふいてお別れだ（北見和夫）
別離（三船浩）
真夜中の囁き（宮千加子）
風花の宿 （三船浩）

参考資料

『山崎正・歌謡曲の世界』前橋文学館発行（2006年）

もう一度検索