山形土偶

山形土偶：縄文時代の美と謎

山形土偶は、縄文時代後期中葉（約4,000年前-3,700年前）に関東地方を中心とした地域で製作された土偶の一形式です。その名の由来は、特徴的な山形、あるいは三角形の形状を示す頭部にあります。しかし、その分布は関東地方にとどまらず、東北地方北部、さらには奈良県や熊本県といった遠隔地でも出土例が確認されており、最も広い分布圏を持つ土偶形式として知られています。

研究史

土偶研究は江戸時代から行われていましたが、当初は「珍奇な古物」として扱われ、学術的な研究は明治時代以降に本格化しました。エドワード・モースによる大森貝塚の発掘調査を機に考古学が発展し、土偶も研究対象となりました。

初期には、山形土偶とみみずく土偶は「貝塚土偶」と総称されていました。山形土偶という名称は明治時代に、研究者や収集家が頭部の形状から名付けたのが始まりです。

小野美代子は山形土偶の型式変化を研究し、4段階に分類しました。瓦吹堅は頭部形状や顔面部の表現、縄文施文などから変遷を検討しました。上野修一は文様と形態の差に着目し、椎塚、福田、金洗沢、後藤の4つの主要な系列に分類しました。これらの研究により、山形土偶の地域性や変遷が明らかになりつつあります。

形状とその変遷

山形土偶は、縄文時代後期に加曽利B式土器が作られていた時期に登場しました。先行するハート形土偶の影響を受けつつも、より写実的で均整の取れた形状へと変化を遂げました。頭部は山形または三角形で、後頭部にはコブ状の突起を持つものが多いです。顔面は横幅が広く、T字型の隆帯で眉と鼻を、粘土の粒で目と口を表し、顎の形を強調する例が見られます。胴体には鋸歯文や刺突文が施され、他の形式の土偶に比べて小ぶりなものが多いです。

山形土偶は、時代が下るにつれてみみずく土偶へと変化していきました。小野美代子の分類によれば、頭部の輪郭や眉、鼻の隆帯、後頭部のコブ状突起などが変化していったとされます。最終段階では、頭部が楕円形になり、後頭部の突起が消失するものも現れました。余山貝塚から出土した初期のみみずく土偶には、山形土偶の特徴が残存しており、その変化の過程がよく示されています。

製作年代と分布

山形土偶の製作時期は、縄文時代後期中葉（約4,000年前-3,700年前）とされています。分布の中心は関東地方ですが、東北地方北部や、遠く離れた奈良県や熊本県でも出土例があります。三上徹也は、山形土偶が房総台地（千葉県）を中心とする東関東地域で多く発見されることを指摘しつつ、東北地方の影響も指摘しています。山形土偶は、近畿地方や九州地方にも影響を与え、西日本での後期土偶の成立に深いかかわりを持つという説もあります。

著名な出土例

館の下遺跡出土山形土偶：秋田県大仙市で発見。三角形の頭部、細い粘土紐を使った目や口の表現、豊かな胸部や丸い腹部など、山形土偶の特徴がよく表れています。
椎塚貝塚出土山形土偶：茨城県稲敷市で発見された代表的な作例の一つ。男性的な表情ながら、豊満な胸部を持ち、女性を模ったものとされています。
江原台遺跡出土山形土偶：千葉県佐倉市で発見。反り返った手先や腰回りの鋸歯文が特徴です。
駒形遺跡出土山形土偶：埼玉県皆野町で発見。全身分が揃って発掘され、全体が接合できた貴重な例です。
中根八幡遺跡出土山形土偶：栃木市藤岡町で発見。環状盛土遺構から出土した頭部で、顔部分はほぼ完全な姿でした。
加曽利貝塚出土山形土偶：千葉県千葉市若葉区で出土。バラバラの状態で発見され、一部に赤と黒で彩色された痕跡が残っています。

山形土偶は、縄文時代の精神文化を今に伝える貴重な遺産です。その形状や文様、分布などを通して、当時の人々の生活や信仰について、より深く理解することができます。

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