山本夏彦

山本夏彦：時代を映す辛口のユーモア

山本夏彦（やまもと なつひこ、1915年6月15日 - 2002年10月23日）は、日本の随筆家、編集者であり、その独特な視点と辛辣ながらもユーモラスな語り口で、多くの読者を魅了しました。東京市下谷根岸（現在の東京都台東区根岸）に生まれ、波乱万丈な人生を送りました。

生い立ちと青春時代

山本夏彦は、詩人・山本露葉（本名：山本三郎）の三男として生まれました。父は坪内逍遥に傾倒し、早稲田大学で詩作に励んだ人物でしたが、夏彦が小学6年生の時に50歳で亡くなりました。祖父は高利貸しを営む山本義上であり、裕福な家庭環境で育ちました。しかし、父の死後、15歳で父の友人であった武林無想庵に連れられフランスへ渡ります。その後、数回の自殺未遂を経験し、パリの夜間労働大学で学ぶなど、波乱に満ちた青春時代を送りました。

文壇デビューと出版活動

24歳の時、フランスの童話『年を歴た鰐の話』を翻訳し文壇デビュー。戦後の1950年には、出版社「工作社」を設立し、編集兼発行人として活動を始めます。建築関係の書籍出版からスタートし、インテリア専門誌『木工界』（後の『室内』）を創刊。約50年に渡り発行を続けました。この雑誌では、自身のコラム「日常茶飯事」を連載し、その辛辣でユーモラスな視点が広く支持され、文筆家としての地位を確立しました。

コラムニストとしての活躍

『週刊新潮』での「夏彦の写真コラム」や、『諸君！』での「笑わぬでもなし」など、多数の連載コラムを持ちました。これらのコラムでは、日常の出来事や社会現象を独自の視点で切り取り、時に毒舌を交えながらも、読者を魅了する文章を展開しました。また、「新しい歴史教科書をつくる会」の呼びかけ人となるなど、社会的な活動にも関わりました。没する直前まで4本の連載を抱えており、その執筆意欲は衰えることがありませんでした。

人物像と影響

山本夏彦の文章は、時に辛辣でありながらも、ユーモアにあふれ、読者に深く考えさせる力を持っていました。その独特な語り口は、多くの作家や文化人に影響を与えました。安部譲二は、刑務所内で「室内」を愛読し、山本夏彦を師と仰ぎ、作家デビューのきっかけを得ています。また、石井英夫や辻まこと、阿川弘之、藤島泰輔など、多くの著名人が彼の愛読者であったことを公言しています。

受賞と晩年

1984年に菊池寛賞、1990年に読売文学賞を受賞。また、1998年には市川市民文化賞を受賞しました。晩年まで執筆活動を続け、2002年10月23日に胃癌で亡くなりました。87歳でした。

主な著作

日常茶飯事
茶の間の正義
変痴気論
毒言独語
笑わぬでもなし
編集兼発行人
二流の愉しみ
ダメの人
恋に似たもの
無想庵物語
「豆朝日新聞」始末
私の岩波物語
世は〆切
「社交界」たいがい
写真コラム集

関連書籍

山本伊吾『夏彦の影法師　手帳50冊の置土産』
小池亮一『魔法使い　山本夏彦の知恵』
嶋中労『座右の山本夏彦』

まとめ

山本夏彦は、時代を鋭く見つめ、独自の視点で社会や文化を語った随筆家、編集者でした。辛口ながらもユーモアにあふれる文章は、多くの読者を魅了し、今なお、その作品は読み継がれています。

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