辻まこと

辻まこと：奔放な才能と波乱の生涯

辻まこと（1913-1975）は、詩人にして画家、そして山岳愛好家として知られる、20世紀日本の文化人である。その生涯は、激動の時代を反映するかのように、奔放でドラマチックな出来事に彩られている。

激動の生い立ちと放浪

1913年、ダダイスム運動の中心人物として知られる辻潤と、婦人解放運動家で社会主義者であった伊藤野枝を両親に持ち、福岡で誕生した。両親の奔放な生き方は、まことの生涯に大きな影響を与えた。幼少期は、両親の活動に翻弄され、転々と生活場所を変えながら不安定な日々を送った。関東大震災の混乱の中で、母・野枝は父・大杉栄とともに、甘粕事件で命を落とした。この事件は、まことの心に深い傷を残したことは想像に難くない。

その後、まこと自身も静岡工業学校や法政大学工業学校に通うものの、中退。父との放浪生活を送る中で、父に付き添いパリへ渡る。パリ滞在中は、父・潤の知人である山本夏彦や武林無想庵など、文化人との交流を通して視野を広げる。15歳にして、雑誌『文学時代』に自身の体験を綴った記事を発表するなど、早くから才能を示した。

芸術家としての歩みと複雑な人間関係

日本に帰国後、まこはオリオン社で絵描きの仕事に従事。その後、三井直麿とともに絵の制作会社「Zスタジオ」を設立するなど、精力的に活動する。この頃から、登山に熱中するようになり、竹久夢二の息子である竹久不二彦らと山岳探検を行う。

まことの私生活は、複雑で奔放であった。複数の女性との交際や結婚・離婚を繰り返すなど、激しい情念が伺える。女性関係は特に複雑で、恋人や妻との間に子供をもうける一方、愛人関係も持っていたことが知られている。イヴォンヌという女性との間には、子供をもうけるが、不幸な事故で子供を失う悲劇も経験した。これらの経験は、彼の作品にも反映されていると言えるだろう。

太平洋戦争中は『東亜日報』の特派員として天津に赴任、陸軍に徴用されて従軍。終戦後、帰国。草野心平の雑誌『歴程』に寄稿を始め、文筆活動に力を入れるようになる。この頃には、山岳をテーマとした作品制作にも取り組むようになり、独自の画文スタイルを確立していく。

山への憧憬と晩年

まことの芸術活動の大きなテーマは、山岳であった。彼は自身の体験や感性を活かし、山岳を題材とした詩や絵画を数多く制作。自然と人間の関わり、文明批評的な視点を取り入れた作品は高い評価を得て、多くの画文集を出版した。『山からの絵本』や『山の声』など、彼の作品には、山々への深い愛情と畏敬の念が感じられる。

晩年は、胃がんを患い、余命いくばくもないことを悟り、1975年、自ら命を絶った。62歳であった。彼の死後も、彼の作品は多くの読者や鑑賞者に愛され続け、今日でも高く評価されている。

作品と影響

辻まことの著作は多岐にわたり、画文集、詩集、随筆集など、数多くの作品を残している。『虫類図譜』は、独特のユーモアと観察眼が光る代表作である。また、山岳を主題とした作品群は、彼の深い山への愛情と、自然に対する鋭い洞察力を示している。

彼の作品は、戦後の日本の社会や文化を反映するとともに、彼の複雑で奔放な人生観を反映していると言えるだろう。彼の生き様と作品は、現代の私たちに、多くの示唆を与え続けている。

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