山村耕花

山村耕花：近代日本画壇を彩った多才な芸術家

山村耕花（やまむら こうか、1885年1月2日-1942年1月25日）は、明治から昭和時代にかけて活躍した日本画家、浮世絵師、版画家である。東京府品川区に生まれ、尾形月耕に師事して画業をスタートさせた。その後、東京美術学校日本画選科を卒業。

耕花は、1907年の第1回文展に「荼毘」を出品し入選、1910年の第4回文展では「大宮人」が褒状を受賞するなど、早くから才能を認められた。1914年からは再興院展に参加し、第3回展に出品した「業火と寂光の都」が高く評価され、日本美術院同人となる。烏合会や珊瑚会など、複数の団体にも所属し、精力的に作品を発表した。

彼の作品は、歴史や風俗を題材としたものが多く、ダイナミックな画風と古典への造詣の深さが特徴である。特に有名で代表的な作品群として挙げられるのは、大正9年（1920年）から発表された「梨園の華」シリーズ全12点である。歌舞伎役者の姿を鮮やかに描いたこのシリーズは、現在も高い評価を受けている。

耕花は絵画だけでなく、舞台装置や演劇にも強い関心を持ち、浮世絵、大津絵、蒔絵、陶磁器、人形など、多岐にわたる資料を収集していたという。その関心の広がりは、彼の作品に多様な表現方法と豊かな視点を生み出したと考えられる。

版画制作においても、耕花は独自の道を歩んだ。1916年には渡辺版画店（現・株式会社渡邊木版美術画舗）から「十一代目片岡仁左衛門の大星由良之助」を発表し、以降数多くの役者絵の新版画を制作・発表。さらに、1914年には自ら彫り、自ら摺る自刻自摺による木版画にも挑戦した。1915年6月からは、似顔絵雑誌『新似顔』に役者絵の小作品を連載するなど、版画の普及にも貢献した。石井柏亭や川村花菱といった同時代の画家との共作や合作も残している。

晩年には、私家版の版画（木版画・石版）を制作するため、発起人を募り、その制作を渡辺版画店に依頼した。1935年には多摩美術大学教授に就任。日中戦争が始まると、1938年の「大地悠々」など戦争画も発表するようになり、1940年には南支戦線に従軍し、「南支汕頭上空より」、「南支虎門動次島」などの作品を描いている。

腎臓炎を患い、聖路加病院で治療を受けていたが、回復することなく1942年1月25日、57歳で死去した。法名は豊筆院彩徳耕花居士。品川区東大井の来福寺に埋葬されている。

彼の作品は、日本銀行金融研究所貨幣博物館、町田市立国際版画美術館、ホノルル美術館、東京国立近代美術館、千葉市美術館、江戸東京博物館などに所蔵されている。代表的な作品には、「日本銀行図」、「新浮世絵美人合　二月　寒空」、「踊り 上海ニューカルトン所見」、「お杉お玉図」、「うんすん歌留多」、「四代目尾上松助の蝙蝠安」、「七世松本幸四郎の関守関兵衛」、「梨園の華」シリーズなどがある。

山村耕花は、日本画、浮世絵、版画と、幅広い分野で活躍した稀有な芸術家であった。彼の作品は、近代日本画壇における重要な位置を占めており、現在も高い評価を受けている。多様な表現方法と豊かな感性で、時代を超えて人々を魅了し続ける彼の作品は、日本の美術史に大きな足跡を残している。

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