尾形月耕

尾形月耕：明治・大正期の浮世絵界を彩った名匠

尾形月耕（おがたげっこう、1859年10月10日 - 1920年10月1日）は、明治から大正時代にかけて活躍した、日本を代表する浮世絵師にして日本画家です。江戸で生まれ、裕福な家庭環境で育ちましたが、若くして家業の没落を経験します。絵画への情熱は幼少期から育まれ、独学で研鑽を積む一方、菊池容斎の画風を深く研究しました。

画業の始まりと成功

生計を立てるため、提灯屋を営みながら絵師としての道を歩み始めます。当初は絵ビラ制作からキャリアをスタートさせ、徐々に画技を向上させていきます。吉原遊廓の絵ビラや人力車の蒔絵、さらには輸出用の陶器や漆器の下絵なども手掛け、多様な画材や画法を習得していきました。

転機となったのは、明治10年頃（1877年頃）に自費出版した三枚続錦絵『征韓論』（名鏡斎季邑『建白御評議之図』と推測される）です。この作品は河鍋暁斎に見出され、その才能が認められたとも言われています。この成功を機に、名鏡正之助（本名）から尾形月耕へと改名し、本格的に絵師としての活動を展開します。

多彩な活躍と人気獲得

明治14年（1881年）頃からは、書籍や新聞、雑誌の挿絵を数多く手掛け、人気画家として地位を確立していきます。「絵入朝野新聞」などの新聞挿絵や多くの文芸雑誌の口絵は、当時の読者から高い人気を集めました。特に明治20年代には、水野年方とともに新聞挿絵界の双璧として知られ、絶大な人気を誇りました。

小説の挿絵では、末広鉄腸の『花間鶯』、二葉亭四迷の『浮雲』、山田美妙の『夏木立』など、著名な作品に彩りを添えました。錦絵作品も多岐に渡り、『月耕随筆』『源氏五十四帖』といったシリーズ作品から、外国向けの『明治美人風俗礼式』、そして日清戦争を題材にした錦絵なども発表しています。大判木版シリーズである『月耕漫画』（全3編21巻）は、約10年に渡って刊行された代表作の一つとして知られています。

展覧会と受賞

尾形月耕は、積極的に展覧会に参加し、数々の賞を受賞しています。日本青年絵画協会や日本美術院などの展覧会で一等褒状や銀杯、銅牌を受賞。明治31年（1898年）の日本美術協会展に出品した『曽我夜討』は、なんと明治天皇に買い上げられました。また、シカゴ万国博覧会（1893年）、パリ万国博覧会（1900年）、セントルイス万国博覧会（1904年）など、海外の万博にも積極的に出品し、国際的にも高い評価を得ています。

家庭と弟子

私生活では、先妻と離婚後、弟子の田井喜久と再婚し、姓を田井に変更しました。息子である尾形月山、娘の尾形玉耕も日本画家として活躍しており、芸術一家を築きました。その才能は子孫にも受け継がれ、孫の田井正忠（尾形真弓）はグラフィックデザイナー、孫の尾形礼正は画家として活躍しています。

多くの弟子を育成した点も特筆すべきでしょう。小川耕一をはじめ、多数の門弟が月耕の指導の下で絵師として成長しました。

作品鑑定

尾形月耕の作品は、現在でも高い人気を誇り、多くのコレクターから注目されています。しかし、同時代に「月耕」を名乗る絵師がいたため、贋作や誤認に注意が必要です。特に肉筆画においては、溝口月耕や田中月耕（四条派）の作品と混同されるケースが多いため、鑑定には細心の注意が必要です。

代表作

尾形月耕は、数多くの優れた作品を残しました。主な代表作として、錦絵シリーズ『月耕随筆』『源氏五十四帖』『美人花競』『婦人風俗尽』『百富士』『美人名所合』などがあります。これらの作品は、繊細な描写と美しい色彩で知られており、今もなお人々を魅了し続けています。

まとめ

尾形月耕は、明治・大正期の浮世絵界を代表する重要な画家です。多様な画材や画法を駆使し、錦絵から新聞挿絵、雑誌口絵、肉筆画まで、幅広い分野で活躍しました。その作品は、時代を反映しつつも普遍的な美しさを持っており、現代においても高く評価されています。彼の生涯と作品は、日本の美術史において重要な位置を占めています。

もう一度検索