山東料理

山東料理（魯菜／山東菜）

中国の広大な国土で育まれた多様な食文化の中で、山東料理は最も古い歴史を持つ主要な料理系統の一つです。山東省を源流とし、「魯菜（ルーサイ）」や「山東菜」とも称され、四川、広東、江蘇料理と並ぶ中国四大料理に名を連ねています。特に、明清代には宮廷料理として発展し、現在の北京料理の礎を築いたことでも知られています。

歴史と背景

山東省は古くから魯や斉といった文化的な中心地であり、中原の肥沃な農地と黄海に面した海岸線を有するため、穀物、野菜、畜産物、そして豊富な海産物といった、実に多様な食材に恵まれた土地柄です。このような環境を背景に、山東料理は春秋戦国時代という紀元前の古い時代から絶え間ない発展を遂げてきました。また、儒教の祖である孔子の生誕地である曲阜（きょくふ）では、孔子廟での祭礼に供される料理が独自に洗練され、「孔府菜（こうふさい）」として特別な地位を確立しています。

特徴

山東料理の大きな特徴は、その鮮やかな色彩、柔らかな歯ごたえ、そして豊かな香りとしっかりとした塩味にあります。調理においては、透明で澄んだコンソメ風のスープ「清湯（チンタン）」や、白く濃厚な牛乳のようなスープ「奶湯（ナイタン）」が頻繁に用いられます。また、風味付けにはねぎなどの香味野菜を多用することも特徴の一つです。沿岸部に位置するため、魚介類をふんだんに使った料理が多いのも、他の地域には見られない特色と言えます。

主な系統

現在の山東料理は、主に以下の三つの系統に分類されています。

済南料理（済南菜）
黄河下流の肥沃な平野にある省都・済南を中心に発展しました。強火で手早く炒め揚げる「爆（バオ）」、炒め煮にする「焼（シャオ）」、とろみをつけて煮込む「扒（パア）」、揚げる「炸（ヂャア）」、炒める「炒（チャオ）」といった多様な加熱調理法が得意で、味付けは比較的しっかりとしています。

膠東料理（膠東菜）
山東半島東端の膠東地方、特にかつて福山と呼ばれた煙台市福山区を発祥とします。海岸線に近いため、新鮮な魚介類を主役にした料理が多く見られます。素材本来の持ち味を活かした淡白な味付けや、魚の造形を美しく見せる繊細な包丁捌きなどが特筆されます。

曲阜料理（孔府菜）
孔子ゆかりの地、曲阜で生まれた特殊な料理です。歴代皇帝が孔子を祀る祭礼のために用意させた料理が源流となっており、非常に精巧で華麗な調理技術が用いられます。歴史と儀礼に基づいた格式高い料理として知られています。

歴史的影響

明代から清代にかけて、北京の宮廷で料理を担当していたのは主に山東省出身の料理人たちでした。彼らの用いる調理法や食材が宮廷料理の基礎となり、これが後の北京料理へと繋がっていきます。さらに、地理的に近い韓国では、多くの華僑が山東省から渡った影響で、現在韓国で独自に発展した中華料理の原型もまた、山東料理にあるとされています。

代表的な料理

糖醋鯉魚（タンツーリーユィ）：鯉の甘酢あんかけ
* 醬爆雞丁（ヂャンバオヂーディン）：鶏肉の味噌炒め

その他、徳州扒鶏（ダーヂョウパアヂー）や木須肉（ムースーロウ）、腰果鶏丁（ヤオグオヂーディン）なども関連する料理として知られています。

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