山水電気

山水電気株式会社：音響の歴史を彩った名門

山水電気株式会社は、1944年に創業し、東京都に本社を置いていた音響機器メーカーです。創業者の菊池幸作は「山のごとき不動の理念と水の如き潜在の力」を社是とし、高品質・高信頼性をモットーに、トランス技術を基盤としたHi-Fiアンプの製造・販売で名を馳せました。

創業から海外展開へ

1944年、菊池幸作が渋谷区で山水電気製作所を創業したのが始まりです。当初はトランスの製造・販売が中心でしたが、1950年代には前園俊彦らと共にオーディオ機器の生産を開始。1969年には海外向けに開発されたAM-FMレシーバー「MODEL5000」がベトナム戦争中の米軍PXで大ヒットし、オーディオ機器メーカーとしての地位を確立しました。海外市場での成功により、「SANSUI」ブランドは高級アンプの代名詞として世界中に知れ渡りました。

隆盛と労使対立

1980年代のオーディオブーム全盛期には、パイオニア、トリオ（現JVCケンウッド）と並び「オーディオ御三家」と称されるほどでした。特にステレオアンプ技術では名門とされ、JBLの日本総代理店も務めました。1984年には売上高525億円を記録しましたが、一方で、米軍PXへの依存や大手電機メーカーの参入により、1970年代以降は業績が悪化。1970年代から1980年代にかけては労使対立が激化し、労働組合を巡る事件も発生しました。創業者の菊池幸作は、1974年に一連の責任を取り社長を辞任しました。

経営悪化とブランドの終焉

オーディオブームの衰退とデジタル化の波は、山水電気の経営をさらに悪化させました。1989年には英国のPPIの傘下に入り、翌年にはPPIが破綻。その後、香港のセミテックの傘下になるなど、親会社は変遷しました。1993年には財政再建のため本社を売却しましたが、経営は好転せず、2001年には自社製造拠点を失い、アフターサービスが中心となりました。株価は1円～3円程度で推移し、個人投資家の間で「低位株」として知られるようになりました。

2011年には親会社が倒産状態になり、資金繰りが悪化。2012年に民事再生法を申請しましたが、その後も資金繰りの目途が立たず、2014年に東京地方裁判所より破産手続き開始の決定を受け、2018年には法人格が消滅しました。負債総額は約3億5000万円でした。

SANSUIブランドの継承

山水電気の法人格は消滅しましたが、「SANSUI」ブランドはその後も様々な企業によって継承されています。2012年から2021年まで、ドウシシャがSANSUIブランドを使用し、ミニコンポやCDラジカセなどを販売しました。2021年以降は、外部委託により一部の音響製品のメンテナンスサービスが提供されています。また、中国、アメリカ、イギリスなど海外でもSANSUIブランドの製品が販売されており、そのブランド力は依然として健在です。

主要な事業所

山水電気は、時代とともに本社や事業所を移転させました。

杉並本社：1957年から1993年まで東京都杉並区にあった本社は、井ノ頭通り沿いに位置していました。
渋谷本社：2003年から2012年まで、渋谷区のグランデビルに入居していました。
埼玉事業所：埼玉県入間市にあった事業所は、スピーカーボックスを模したデザインが特徴でした。
福島事業所：福島県須賀川市にあった工場は、同社最後の主力工場であり、一時本社所在地でもありました。現在はひばり温泉として活用されています。
静岡事業所：静岡県掛川市にありましたが、現在はユニ・チャームプロダクツ静岡工場と日東工業掛川工場になっています。
長野事業所：長野県塩尻市にありましたが、閉鎖後、跡地は道路となっています。

山水電気厚生年金基金

1972年には従業員の老後生活の安定を目的として山水電気厚生年金基金が設立されましたが、会社の経営状況悪化により2001年に解散し、基金資産は退職者と加入社員に分配されました。

終わりに

山水電気は、その革新的な技術と高品質な製品で、オーディオ史に確かな足跡を残しました。栄光と挫折を経験したその歴史は、日本の電機業界の変遷を映し出す鏡とも言えるでしょう。現在、同社は法人としては存在しませんが、「SANSUI」ブランドは今もなお、多くの人々に愛され続けています。

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