山王ホテル

山王ホテル：歴史に名を刻む幻のホテル

山王ホテルは、かつて東京の赤坂に存在したホテルです。戦前には帝国ホテル、第一ホテルと並び、東京を代表する近代的なホテルとして知られていました。特に、1936年（昭和11年）の二・二六事件では、反乱軍に占拠され、クーデター側の司令部となったことで、その名を歴史に刻んでいます。

戦前：華麗なる創業と二・二六事件

1932年（昭和7年）、自動車・燃料関連企業「安全自動車」の経営者、中谷保によって創業されました。皇居や国会議事堂にも近い日枝神社の南側に位置し、地下には当時としては珍しいアイススケート場を備えた、モダンな建物でした。開業当初は80室でしたが、増築により149室に。欧州風の本館と和風建築の日本館が併設され、国内外の賓客をもてなしました。

二・二六事件では、反乱軍の拠点となり、多くの軍人が出入りしました。この事件を機に、山王ホテルの名は広く知られることとなりました。

戦後：米軍による接収と閉鎖

太平洋戦争後、1946年（昭和21年）に連合国軍（アメリカ軍）に接収され、米軍関係者のためのホテル、家族向け住宅として利用されることになり、「U.S.Naval Joint Service Activity Sanno Hotel」という名称が与えられました。これにより、一般の日本人の立ち入りは禁止され、その華麗な歴史は一時途絶えることになります。

1951年（昭和26年）のサンフランシスコ講和条約締結後も、山王ホテルは米軍専用施設として供与され続けました。日本政府は所有者に対して土地・建物の使用料を支払い続けました。

1979年（昭和54年）には、ホテル中庭から照明弾が発射され、首相官邸前庭に落下するという事件も発生。米軍関係者のいたずらとして処理されました。

日本政府は1975年（昭和50年）に米軍との間で返還合意をしましたが、代替施設（ニュー山王ホテル）の建設が遅れ、旧山王ホテルが実際に閉鎖されたのは1983年（昭和58年）10月5日でした。

現在：山王パークタワーとして

閉鎖後、山王ホテルの跡地は長らく更地でしたが、1990年代後半に再開発計画が始動。三菱地所と安全自動車、日枝神社などが共同で事業を進め、2000年（平成12年）1月、山王パークタワーが竣工しました。かつてのホテルの面影は残っていませんが、その名は今も歴史の中に生きています。

ニュー山王ホテル：代替施設

旧山王ホテルの代替施設として、1983年（昭和58年）に東京都港区に開業したのが「ニュー山王ホテル」です。こちらは日本政府がアメリカ軍に提供している施設で、現在も米軍関係者やその家族が利用しています。

山王ホテルの遺産

山王ホテルは、その短い歴史の中で、日本の近代史に深く関わってきました。二・二六事件の舞台となり、戦後は米軍に接収されるという激動の時代を経験しました。現在、その姿はありませんが、山王パークタワーとして、その名を残しています。

また、地下にあったアイススケート場は、全日本フィギュアスケート選手権の会場となるなど、スポーツの振興にも貢献しました。ソ連の秘密警察幹部リュシコフが亡命の際に会見を行ったり、ゾルゲなどのスパイが利用したりするなど、国際的な舞台ともなりました。

山王ホテルは、単なるホテルではなく、日本の近代史を象徴する存在として、記憶されるべき場所と言えるでしょう。

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