山田スイミングクラブ

山田スイミングクラブ

山田スイミングクラブ（やまだスイミングクラブ、Yamada Swimming Club）は、日本の高度経済成長期、1960年代に大阪の地で活動したスイミングクラブです。従来の水泳界における選手強化の仕組みを変革し、特定の目標達成のために短期集中で英才教育を行う画期的なクラブとして知られています。

設立の背景と歴史

このクラブが誕生する直接的な契機となったのは、1964年に開催された東京オリンピックにおける日本競泳チームの成績不振でした。この現状に強い危機感を抱いた当時のロート製薬社長、山田輝郎氏は、日本の水泳レベル向上への貢献を決意します。そして、自身の多額の私財（当時の金額で約1億円）を投じ、新たな選手育成拠点を設けることを計画しました。

こうして、東京オリンピックの翌年である1965年3月、大阪市生野区にあるロート製薬本社敷地内に山田スイミングクラブは開設されました。これは、東京の代々木スイミングクラブと並び、日本におけるスイミングスクールの最初期の例の一つとされています。

当時の日本の水泳界では、選手強化の主体は学校や企業の運動部が中心でした。しかし、山田スイミングクラブはこれとは全く異なるアプローチを採用します。すなわち、将来オリンピックでメダルを獲得できるような選手を計画的に育成するため、英才教育を目的としたクラブ組織を立ち上げたのです。クラブは全国から特に有望な女子選手を選抜し、専用の寮で共同生活をさせながら、非常に集中的な指導を行いました。選手たちは練習と並行して、近隣の大阪市立巽中学校や浪花女子高等学校に通学し、学業との両立を図りました。

短期での顕著な成果

この独自の強化システムは、比較的短期間で目覚ましい成果を上げます。クラブ設立からわずか1年半後の1966年8月に開催された日本水泳選手権大会では、出場した27名の選手のうち25名が入賞を果たすという高いアベレッジを記録しました。さらに、6種目で優勝者を出すなど、英才教育の有効性を早期に証明しました。

そして、クラブの設立目的であったオリンピックでのメダル獲得は、1972年のミュンヘンオリンピックで結実します。クラブ出身の青木まゆみ選手が女子バタフライ100mで金メダルを獲得したのです。この目標達成は、クラブにとって大きな区切りとなりました。

目標達成とクラブの終焉

青木選手の金メダル獲得により、初期の目標が達成されたこと、そして設立者である山田輝郎氏が高齢となり病気がちになったことなどを理由に、山田スイミングクラブは1972年12月をもって解散しました。

活動期間はおよそ7年と比較的短いものでしたが、山田スイミングクラブが実践した英才教育型のクラブ組織による選手強化手法は、その後の日本のスイミングスクールの発展に大きな影響を与えたと言えます。

主な出身選手

山田スイミングクラブからは、多くの優秀な選手が輩出されました。

青木まゆみ（1972年ミュンヘンオリンピック 女子バタフライ100m 優勝）
西側よしみ（1968年メキシコオリンピック 女子個人メドレー200m 5位）
中川清江（1968年メキシコオリンピック 女子平泳ぎ100m 6位）
我部貴美子（1967年日本水泳選手権 女子背泳ぎ100m、200m 優勝）
藤井康子（1967年日本水泳選手権 女子個人メドレー200m、400m 優勝）
井口妙（1968年日本水泳選手権 女子自由形400m 優勝）
柴田智恵野（1968年日本水泳選手権 女子平泳ぎ200m 優勝）
谷上ひとみ（1970年日本水泳選手権 女子平泳ぎ100m 優勝）
合志幸子（1970年日本水泳選手権 女子背泳ぎ100m、200m 優勝）
松村鈴子（1971年日本水泳選手権 女子背泳ぎ200m 優勝）

指導者

クラブでは、経験豊富な指導者たちが選手の育成にあたりました。

奥田精一郎（イトマンスイミングスクール出身）
加藤浩時（イトマンスイミングスクール出身）
金田平八郎（金田スイミングクラブ出身）

参考文献

「金メダルへの挑戦！ - 世界一を成し遂げた水泳研究と女子英才教育の戦略的手法」（新風舎、2004年）

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