山田屋権兵衛

山田屋権兵衛の歴史

山田屋権兵衛は、江戸時代初期から昭和初期にかけて、約400年にわたり市谷の地で米、味噌、麹の製造・販売を家業としていた一族です。その歴史は、初代甚右衛門が寛永18年（1641年）にこの地の地守を務めたことに始まります。当時、この地は前田家清泰院の御局栄順尼の所領であり、甚右衛門は彼女の縁者であったと伝えられています。

初代から13代権兵衛まで

初代甚右衛門は、元禄13年（1700年）に甲良氏がこの地を拝領する以前からこの地を守り続けていました。その後、代々「権兵衛」の名を襲名し、家業を継承しました。13代権兵衛の時代には、天然理心流剣術道場主である近藤周助に店舗の一部を貸し出していました。また、嘉永2年（1849年）には、近藤勇の実家である宮川家との間で交わされた「養子差出一件」において、保証人としてその名前が記されています。さらに、嘉永4年（1851年）には、米屋および味噌屋問屋として、その名が確認できます。

14代田畑安吉と山権商店

14代権兵衛、田畑安吉は、家業に加え、政治家としても活躍しました。彼は牛込区会議員、東京市会議員を歴任し、縁戚の升本喜兵衛（初代）とともに土地開発にも携わりました。また、下六番町（現在の千代田区六番町）に出店し、15代常吉の代には、屋号を山権商店と改めました。この頃まで、東京の酒造業で使用する酒麹を、升本を経由して一手に担っていました。

16代福太郎と廃業

16代福太郎の時代になると、酒造業も大規模化し、山田屋の酒麹の需要は徐々に失われていきました。昭和17年（1942年）からの戦時統制により、酒麹の製造業から撤退することとなりました。さらに、昭和20年（1945年）5月25日の戦災により、下六番町の店舗を失い、山田屋権兵衛は廃業することとなりました。約400年にわたる一族の歴史に幕を閉じたのです。

参考文献

「市谷町方書上二」（国立国会図書館所蔵）
『牛込区史』（臨川書店）
「第三大区小六区志」（上記『牛込区史』所収）
武藤頼母編『現代人物史』（中外新聞社）

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