山田忠雄

山田忠雄：古典と辞書の両輪を極めた国語学者

山田忠雄（1916年8月10日-1996年2月6日）は、日本の国語学界にその名を刻んだ著名な学者です。国語学者として、また、辞書編纂者として、多大な功績を残しました。その生涯は、学問への揺るぎない情熱と、後進育成への献身によって彩られています。

学者としての足跡：古典と辞書史研究の両立

1936年、東京帝国大学文学部国文科に入学。見坊豪紀氏と同期の山田は、同大学卒業後、岩手県師範学校に赴任しました。この間、見坊氏とともに『明解国語辞典』の編纂にも携わっています。その後、陸軍予科士官学校を経て、1946年には日本大学文理学部国文学科助教授に就任、後に教授となりますが、1959年には辞職。以降は公職に就くことなく、純粋な学究の道へと進みます。

山田氏の研究は、主に古典分野に焦点を当てていました。『今昔物語集』などの中世文学作品における、誤用、稀用、奇例とされる表現から中世日本語の様相を解き明かすなど、その業績は高く評価されています。一方、辞書史研究もライフワークとして精力的に取り組みました。先行辞書の語釈の単純な引き写しを問題視し、「問題とする語が有する雰囲気を、丁寧かつ詳細に説明することで、本義の核心に迫る」という独自の編集方針を確立しました。

『新明解国語辞典』：辞書編集における革新

この革新的な編集方針は、1972年に出版された『新明解国語辞典』に結実します。同辞典の編集主幹を務めた山田氏は、同じ出版社で編纂された見坊氏の『三省堂国語辞典』とは異なる道を歩むことになります。山田氏の『新明解国語辞典』は、従来の国語辞典の概念を超える「新鮮さ」「鋭さ」「面白さ」を特徴として、高い評価を受けました。その独創的な編集は、後世の辞書編纂にも大きな影響を与えました。特に、没後に出版された赤瀬川原平氏の『新解さんの謎』によって一部で「新解さん」の愛称で親しまれるようになり、その人気を不動のものとしました。

教育者としての側面

山田氏は、研究活動に加え、後進の育成にも力を注ぎました。晩年まで研究会を主宰し、指導に当たった他、論文集には必ず教え子の論文を掲載するなど、教育者としての使命感を強く持っていました。

家族と周辺

山田氏は、文化勲章受章者である国語学者山田孝雄を父に持ち、弟の山田俊雄も国語学者として『新潮国語辞典』に関わっています。この一家は、日本の国語学界に大きな足跡を残した名家と言えるでしょう。

出版物

山田氏は、『明解国語辞典』『新明解国語辞典』をはじめ、『三代の辞書：国語辞書百年小史』『近代国語辞書の歩み：その模倣と創意と』など、多くの著書・共著書を発表しました。これらの著作は、現在も国語学、辞書学研究において重要な文献として活用されています。彼の研究と編集の功績は、現代の国語学、ひいては日本語文化に多大な影響を与え続けています。

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