山田敬士
山田 敬士（やまだ けいし、1997年9月18日 - 2023年10月26日）は、日本の元騎手。東京都の出身で、引退まで日本中央競馬会（JRA）美浦トレーニングセンターに所属していました。
彼の競馬との出会いは、小学3年生の時に観戦した2006年の有馬記念に遡ります。このレースでディープインパクトが引退を飾り、その鞍上で勝利した武豊騎手の姿に強い憧れを抱いたことが、騎手への道を志すきっかけとなりました。中学校では乗馬クラブに通い技術を磨きましたが、中学3年時に初めて受験したJRA競馬学校の試験では、一次（学科と面接）で不合格となります。
諦めきれず、馬術部を備える東京都立農芸高等学校に進学し、2回目の挑戦に臨みました。しかし、面接で頭が真っ白になり、再び一次試験で涙を飲みます。その後も夢を諦めず、特にフィジカル面を強化するため綱登りなどをトレーニングに取り入れ、高校2年生で挑んだ3度目の受験で見事合格を果たしました。
2018年2月に競馬学校を第34期生として卒業。彼は母子家庭で育ったことから、卒業時には「これまで母に苦労をかけてきた分、騎手として恩返しをしたい」「弟たちの学費を自分で出せるようになりたい」と、家族への強い思いとプロとしての抱負を語りました。
同年3月、同期の新人騎手の中で唯一、美浦所属として小桧山悟厩舎からプロデビューを飾ります。そしてデビューから31戦目、同年4月14日の福島競馬場第6レースにおいて、イペルラーニオに騎乗し、JRAでの記念すべき初勝利を挙げました。
山田騎手のキャリアにおいて、最も世間の注目を集めたのが、2018年10月13日に新潟競馬場第6レース（3歳以上500万下、ダート2500m）で発生した競走距離誤認の事態です。
このレースで2番人気のペイシャエリートに騎乗した彼は、スタートから先頭を奪いました。しかし、長距離レースであるにも関わらず、1周目のスタンド前直線に差し掛かったところで短距離レースと勘違いし、残り距離が1周以上あるにも関わらず、懸命に追う動作を開始しました。そのまま1周目のゴール板を通過すると、大きく外側に馬を誘導してペースを緩めてしまい、内を通った後続馬に次々と交わされてしまいます。レースがまだ続いていることに気づいて慌てて隊列に戻ったものの、結果は1着馬から4秒8もの大差をつけられた最下位に終わりました。
レース後、JRAは公式に山田騎手による距離誤認があったと発表。この前例のない出来事に対し、翌10月14日から「裁定委員会の議定があるまで」の騎乗停止処分が課されました。競走距離の誤認による騎乗停止は、JRA史上初の珍事として記録されました。
同年11月7日、JRAの裁定委員会は、山田騎手が騎手としての注意義務を著しく怠ったと判断し、競馬施行規程第147条第19号に定める「競馬の公正確保について業務上の注意義務に違反した者」に該当すると認定。結果として、レース翌日から2019年1月13日までの3ヶ月間の騎乗停止処分が正式に決定されました。
当時の報道によると、山田騎手本人はレース前から距離が2500mであることは認識していたものの、調教師からの「絶対ハナに行け」という指示を遂行することに必死になるあまり、1周目の4コーナーを回った時点で周回が残っていることを忘れてしまったと説明したとされています。
騎乗停止期間を終え、2019年1月14日に中山競馬場第3レースへの騎乗で実戦復帰を果たしました。復帰戦で騎乗したのはペイシャラトゥール。この馬は、距離誤認事件で騎乗したペイシャエリートと同じ馬主、北所直人氏の所有馬でした。
これは、処分が決定した際、山田騎手が調教師と共に迅速に北所氏に直接面会し謝罪したことに対し、北所氏がその反省を受け入れ、さらに迅速な対応への返礼として、山田騎手の復帰日に再びチャンスを与えようという温かい計らいによるものでした。
山田騎手と北所氏の関係は深く、デビュー当初から引退まで、多くの北所氏所有馬に主戦騎手として騎乗していました。距離誤認事件前の最後の勝利も北所氏所有馬のペイシャリルキスであり、復帰後初勝利となった2019年2月10日の東京競馬場第7レースも、同じく北所氏所有馬のペイシャボムで挙げています。このエピソードは、騎手と馬主の絆を示すものとして知られています。
復帰後、山田騎手はキャリアを継続し、重賞やGIレースへの騎乗機会も得ました。2019年1月には笠松競馬場の重賞ゴールドジュニアで重賞初挑戦の予定がありましたが、返し馬での放馬により競走除外となりました。JRAでの重賞初騎乗は2020年4月11日のニュージーランドトロフィー（騎乗馬：シャチ）、そして同年12月20日には朝日杯フューチュリティステークス（騎乗馬：ビゾンテノブファロ）で念願のGI初騎乗を果たしています。
2023年3月21日付で小桧山厩舎を離れ、フリーの騎手として活動していましたが、同年9月に調教中の事故で負傷し、休業を余儀なくされました。懸命なリハビリや治療にも関わらず回復が見込めなかったことから、同年10月26日付で本人からの申請により騎手免許を取り消し、わずか5年余りのキャリアでターフから去ることとなりました。
武豊騎手に憧れ、3度の挑戦の末に騎手となった山田敬士。デビュー後には前代未聞の距離誤認という大きな挫折を経験しましたが、周囲の温かいサポートによって立ち直り、重賞やGIの舞台にも立ちました。しかし、不運な怪我により志半ばでの引退となりましたが、その短い騎手人生は、苦難を乗り越え再起を図った人間ドラマとして、多くの人々の記憶に残るでしょう。
騎手を目指した道のり
彼の競馬との出会いは、小学3年生の時に観戦した2006年の有馬記念に遡ります。このレースでディープインパクトが引退を飾り、その鞍上で勝利した武豊騎手の姿に強い憧れを抱いたことが、騎手への道を志すきっかけとなりました。中学校では乗馬クラブに通い技術を磨きましたが、中学3年時に初めて受験したJRA競馬学校の試験では、一次（学科と面接）で不合格となります。
諦めきれず、馬術部を備える東京都立農芸高等学校に進学し、2回目の挑戦に臨みました。しかし、面接で頭が真っ白になり、再び一次試験で涙を飲みます。その後も夢を諦めず、特にフィジカル面を強化するため綱登りなどをトレーニングに取り入れ、高校2年生で挑んだ3度目の受験で見事合格を果たしました。
プロデビューと家族への思い
2018年2月に競馬学校を第34期生として卒業。彼は母子家庭で育ったことから、卒業時には「これまで母に苦労をかけてきた分、騎手として恩返しをしたい」「弟たちの学費を自分で出せるようになりたい」と、家族への強い思いとプロとしての抱負を語りました。
同年3月、同期の新人騎手の中で唯一、美浦所属として小桧山悟厩舎からプロデビューを飾ります。そしてデビューから31戦目、同年4月14日の福島競馬場第6レースにおいて、イペルラーニオに騎乗し、JRAでの記念すべき初勝利を挙げました。
競走距離誤認という前代未聞の出来事
山田騎手のキャリアにおいて、最も世間の注目を集めたのが、2018年10月13日に新潟競馬場第6レース（3歳以上500万下、ダート2500m）で発生した競走距離誤認の事態です。
このレースで2番人気のペイシャエリートに騎乗した彼は、スタートから先頭を奪いました。しかし、長距離レースであるにも関わらず、1周目のスタンド前直線に差し掛かったところで短距離レースと勘違いし、残り距離が1周以上あるにも関わらず、懸命に追う動作を開始しました。そのまま1周目のゴール板を通過すると、大きく外側に馬を誘導してペースを緩めてしまい、内を通った後続馬に次々と交わされてしまいます。レースがまだ続いていることに気づいて慌てて隊列に戻ったものの、結果は1着馬から4秒8もの大差をつけられた最下位に終わりました。
レース後、JRAは公式に山田騎手による距離誤認があったと発表。この前例のない出来事に対し、翌10月14日から「裁定委員会の議定があるまで」の騎乗停止処分が課されました。競走距離の誤認による騎乗停止は、JRA史上初の珍事として記録されました。
同年11月7日、JRAの裁定委員会は、山田騎手が騎手としての注意義務を著しく怠ったと判断し、競馬施行規程第147条第19号に定める「競馬の公正確保について業務上の注意義務に違反した者」に該当すると認定。結果として、レース翌日から2019年1月13日までの3ヶ月間の騎乗停止処分が正式に決定されました。
当時の報道によると、山田騎手本人はレース前から距離が2500mであることは認識していたものの、調教師からの「絶対ハナに行け」という指示を遂行することに必死になるあまり、1周目の4コーナーを回った時点で周回が残っていることを忘れてしまったと説明したとされています。
再起と馬主との絆
騎乗停止期間を終え、2019年1月14日に中山競馬場第3レースへの騎乗で実戦復帰を果たしました。復帰戦で騎乗したのはペイシャラトゥール。この馬は、距離誤認事件で騎乗したペイシャエリートと同じ馬主、北所直人氏の所有馬でした。
これは、処分が決定した際、山田騎手が調教師と共に迅速に北所氏に直接面会し謝罪したことに対し、北所氏がその反省を受け入れ、さらに迅速な対応への返礼として、山田騎手の復帰日に再びチャンスを与えようという温かい計らいによるものでした。
山田騎手と北所氏の関係は深く、デビュー当初から引退まで、多くの北所氏所有馬に主戦騎手として騎乗していました。距離誤認事件前の最後の勝利も北所氏所有馬のペイシャリルキスであり、復帰後初勝利となった2019年2月10日の東京競馬場第7レースも、同じく北所氏所有馬のペイシャボムで挙げています。このエピソードは、騎手と馬主の絆を示すものとして知られています。
その後のキャリアと突然の引退
復帰後、山田騎手はキャリアを継続し、重賞やGIレースへの騎乗機会も得ました。2019年1月には笠松競馬場の重賞ゴールドジュニアで重賞初挑戦の予定がありましたが、返し馬での放馬により競走除外となりました。JRAでの重賞初騎乗は2020年4月11日のニュージーランドトロフィー（騎乗馬：シャチ）、そして同年12月20日には朝日杯フューチュリティステークス（騎乗馬：ビゾンテノブファロ）で念願のGI初騎乗を果たしています。
2023年3月21日付で小桧山厩舎を離れ、フリーの騎手として活動していましたが、同年9月に調教中の事故で負傷し、休業を余儀なくされました。懸命なリハビリや治療にも関わらず回復が見込めなかったことから、同年10月26日付で本人からの申請により騎手免許を取り消し、わずか5年余りのキャリアでターフから去ることとなりました。
武豊騎手に憧れ、3度の挑戦の末に騎手となった山田敬士。デビュー後には前代未聞の距離誤認という大きな挫折を経験しましたが、周囲の温かいサポートによって立ち直り、重賞やGIの舞台にも立ちました。しかし、不運な怪我により志半ばでの引退となりましたが、その短い騎手人生は、苦難を乗り越え再起を図った人間ドラマとして、多くの人々の記憶に残るでしょう。
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