山谷大堤

山谷大堤（やまたにおおつつみ）

佐賀県西松浦郡有田町山谷切口に位置する山谷大堤は、貯水量9万8700立方メートルを誇るため池です。2010年には農林水産省の「ため池百選」に選定され、その上流に広がる岳の棚田は「日本の棚田百選」および「つなぐ棚田遺産」に認定されています。

歴史と地理

山谷大堤は、国見山の中腹、山谷切口に位置します。湖畔には多くの石碑が建ち、その歴史を今に伝えています。1684年（貞享元年）に山谷村の人々が協力して築造したことが碑文に刻まれており、「善女龍王」の名も刻まれています。「善女龍王」は雨の神、竜神の化身であり、神泉苑に残る空海の法力比べ伝説に由来すると言われています。

江戸時代には、干ばつに苦しむ地域住民が黒髪山で雨乞いを行っていました。その際、同山にあった寺の僧侶が池を建立したと伝えられています。碑文にある「半蓑雨」という言葉は、この池が古くから下流地域の干ばつ被害軽減に貢献してきたことを物語っています。

池の奥にはさらに4基の石碑が立っており、1908年（明治41年）や1933年（昭和8年）の石碑には、決壊による改修工事の記録が残されています。現在、山谷大堤は45ヘクタールの水田を潤し、灌漑用水としての役割を担うほか、治水や防火用水としても重要な利水機能を持っています。

伝統芸能

山谷地区では、1650年（慶安3年）頃を起源とする伝統芸能「山谷浮立」が継承されています。これは、干ばつ時の雨乞い祈願として始まった神事であり、現在では毎年の夏と秋祭りに、集落が持ち回りで氏神に奉納しています。また、五穀豊穣を感謝するお日待祭りも当番農家で催され、豊かな農村文化を今に伝えています。

岳の棚田

山谷大堤の上流に位置する岳地区の棚田は、上流域の水源林からの湧水と、山谷大堤を水源としています。棚田は岳地区の住民によって共同管理されており、1996年（平成8年）に開催された第2回「全国棚田サミット」を契機に、地域の若手グループが「岳信太郎棚田会」を発足させました。

「岳信太郎棚田会」は、荒廃が進む棚田の現状を都市住民に理解してもらうため、棚田オーナー制度を展開しています。都会では味わえない農作業（田植え、稲刈り）体験や、自然と共生する生活の魅力を伝えています。また、現在実施中の「中山間地域総合整備事業」では、岳地区に棚田を活用した体験農園を整備する計画が進められています。

岳地区の上部には国見道路が通っており、そこから見下ろす棚田の風景は、その美しい形状と点在する集落が一体となり、日本の原風景を今に残しています。法面には堅固な石積みが施されており、布積や谷積など、様々な石積みの技法が用いられています。これらの技術は現在も地域に継承されており、周辺地域を含めた農村景観の美しさに貢献しています。

良質な水資源の活用と、牛糞堆肥やレンゲ栽培による緑肥の施用により、岳の棚田では高品質な棚田米が生産されています。

アクセス

松浦鉄道西九州線山谷駅
佐賀県道326号山谷大木線

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