岡山大空襲

岡山空襲：戦火に包まれた街と人々の記憶

1945年6月29日未明、第二次世界大戦下の岡山市は、アメリカ軍による激しい空襲に見舞われました。およそ140機のB-29爆撃機から降り注いだ爆弾と焼夷弾は、街を焦土に変え、多くの市民の命を奪いました。この岡山空襲は、戦略爆撃の名の下に行われたものの、実際には無差別爆撃に近い形で実行され、1737名もの犠牲者を出した悲劇として、今も記憶に刻まれています。

空襲に至るまでの経緯

1944年からアメリカ軍による日本本土への空襲は激しさを増し、規模も拡大していきました。岡山市は、人口約16万人の中小都市でしたが、陸軍の兵舎や兵器廠、そして重要な鉄道網の要衝という地理的条件から、アメリカ軍の空襲目標リストに挙げられていました。

アメリカ軍の目標情報票には、岡山駅や操車場、兵器工場、そして三菱航空機工場（現在の倉敷市水島）など15の軍事施設が重要拠点としてリストアップされていました。しかし、実際にはこれらの軍事施設よりも、それらに関連する多数の小規模工場や、そこで働く一般市民が攻撃の主要な対象となりました。

特に、市街地中心部、国道53号と県庁通りの交点付近は、攻撃の中心目標に定められました。この地点には当時の岡山市役所などがあり、最も効果的な攻撃が可能だとアメリカ軍は判断したのです。空襲7日前には、水島地区が空襲を受けており、岡山市の空襲は、戦況の悪化と、中小都市への攻撃拡大を示す象徴的な出来事でした。

空襲当日：突然の襲来と街の崩壊

6月28日夜、テニアン島から飛び立ったB-29爆撃機は、岡山市へと向かいました。途中、機械トラブルで3機が引き返しましたが、残る138機は、岡山市の上空に姿を現しました。午前2時43分、空襲警報が間に合わないまま、爆撃が始まりました。

照明弾と焼夷弾が投下され、市内は瞬く間に火の海と化しました。約890トンもの焼夷弾は、市街地を徹底的に焼き尽くし、逃げ場を失った多くの市民が犠牲となりました。その中には、子どもや高齢者も多く含まれていました。

空襲後から敗戦まで：焦土と復興への道

空襲の結果、市街地の73%が焼失し、岡山城天守閣をはじめとする多くの文化財も失われました。一方、北郊の陸軍施設は比較的被害が少なく、この対照的な光景は、空襲の非人道的な側面を浮き彫りにしています。

空襲後、岡山市は復興に向けて動き出しましたが、その道のりは長く険しいものでした。7月には学童疎開も計画されましたが、結局は分散教育という形で対応することになりました。アメリカ軍は7月上旬に岡山市を偵察し、破壊面積率を63%と報告。これはアメリカ軍の計画を上回る数値でした。7月24日には、空母からの艦載機による攻撃もあり、犠牲者はさらに増えました。

広島と長崎への原子爆弾投下、そして日本の無条件降伏を経て、岡山空襲は、戦争の悲惨さと終戦への道のりを象徴する出来事として、今なお語り継がれています。

岡山空襲の被害

罹災面積: 7.69km² (市街地の73%)
罹災戸数: 12,693戸
罹災者数: 約12万人
死者数: 1,737人
* 負傷者数: 6,026人

被災した主な地域と建造物

岡山空襲では、現在の岡山市北区、中区を中心に多くの地域が焼失しました。岡山駅、岡山城、県庁、そして多くの学校や寺院などが被害を受けました。それぞれの地域で、戦前と戦後の様子を比較することで、空襲の爪痕の深さを知ることができます。

被災した著名人

この空襲では、多くの一般市民だけでなく、著名人も犠牲になりました。小説家の三宅速氏、永井荷風氏も岡山空襲を経験しています。また、アニメーション監督の高畑勲氏も幼少期にこの空襲を体験しており、その記憶は後に名作「火垂るの墓」の制作にも影響を与えたと言われています。

記憶を継承する

岡山空襲は、戦争の悲惨さを私たちに伝え、平和の大切さを改めて認識させる歴史的事実です。空襲の記憶を風化させることなく、未来へと繋いでいくことが、私たちの責任と言えるでしょう。

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