岡本忠査

岡本忠査

岡本 忠査（おかもと ただあき）は、江戸時代中期に幕臣として仕えた御家人です。彼の生涯に関する情報は比較的限られていますが、残された史料によって、その経歴の一端を知ることができます。

忠査は、江戸幕府に御家人の身分で仕えていた馬医、桑嶋忠久（くわじま ただひさ）の五男として生を受けました。父の家系は、馬の診療や世話を担う専門職として幕府に仕えていたことになります。当時の武家社会においては、親の家業を継ぐことが一般的でしたが、忠査は異なる道を歩むことになります。

彼の人生における大きな転換期は、享保16年（1731年）に訪れました。具体的には、この年の7月11日という日付をもって、忠査は江戸幕府から「表右筆（おもてゆうひつ）」という役職に召し出されました。表右筆とは、幕府の公文書の作成や記録、儀式の際の筆記などを担当する文官的な役職であり、高い識字能力や教養が求められる職務でした。この召し出しは、忠査がその能力を認められた結果であると考えられます。

表右筆への登用と同時に、忠査は父の家から独立し、新たに御家人としての身分を与えられました。この時、彼には禄米（ろくまい）として150俵が支給されることになりました。禄米とは、幕臣に与えられる給与の一種で、主に米で支給されるものであり、その家の経済的な基盤を形成しました。150俵という禄高は、当時の御家人としては中程度のものといえるでしょう。これにより、忠査は幕府の直臣としての地位を確立したのです。

幕府への出仕から間もない享保16年7月28日には、時の将軍である徳川吉宗（とくがわ よしむね）に初めて拝謁する機会を得ました。将軍への拝謁は、幕臣としての正式な承認を意味し、その地位を確固たるものとする重要な儀式でした。

また、忠査は父・桑嶋忠久の姓ではなく、かつて父が用いていたとされる「岡本」姓を名乗ることを選択しました。当時の武家社会では、家督相続や養子縁組、あるいは特別な事情によって姓を変更したり、旧姓を用い直したりすることがありました。忠査が岡本姓を選んだ具体的な理由は史料からは明らかではありませんが、この姓のもと、彼は表右筆として幕府の公務に従事し、その職責を果たしたと伝えられています。

しかしながら、岡本忠査の具体的な職務内容や、表右筆としての詳しい働きぶりについて記された史料は現在のところ見当たらず、その活動の詳細は不明な点が多いのが実情です。彼の生涯は、幕府に召し出されてから比較的短いものでした。

忠査は、寛保3年（1743年）11月4日にこの世を去りました。これは、彼が表右筆として幕府に出仕し、御家人として独立を果たしてからわずか12年余りのことです。もし彼の生涯がさらに長かったならば、幕府内での昇進や、より重要な職務に就く機会があった可能性も考えられますが、歴史上に残された記録は、この期間の彼の存在を示しています。

岡本忠査に関する記録は、『寛永諸家系図伝』や、江戸幕府が編纂した大規模な系譜集である『寛政重修諸家譜』の第十二巻などに収められています。これらの文献は、当時の武家の家系や略歴を後世に伝える貴重な史料であり、岡本忠査という人物が確かに江戸時代中期に実在し、幕府に御家人として仕えたことを裏付けています。

このように、岡本忠査は、馬医の家系から表右筆という文官的な役職に抜擢され、御家人として独立し、将軍への謁見も果たした人物です。短い期間ではありましたが、江戸幕府の一員としてその役目を担った彼の名は、今日でも歴史書の中に確認することができます。

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