寛永諸家系図伝

寛永諸家系図伝とは

『寛永諸家系図伝』は、江戸幕府が寛永18年（1641年）から寛永20年（1643年）にかけて編纂した、諸大名と旗本以上の幕臣の系譜をまとめたものです。江戸幕府による大規模な系譜編纂事業の最初のものとして位置づけられます。

編纂の経緯

徳川幕府三代将軍・徳川家光の命により、若年寄の太田資宗を総裁、儒学者の林羅山を編纂主任として、編纂事業が開始されました。まず、各家から系図や家譜、古文書などの資料が提出され、それをもとに林羅山の指導のもと、儒学者や五山の僧侶などが編集に携わりました。約2年という短期間で編纂作業は急ピッチで進められ、和文体と漢文体の2種類、全186巻にも及ぶ大著が完成しました。

特徴

収録されている各家の情報は、まず姓氏によって清和源氏、平氏、藤原氏、諸氏の4つに分類されています。巻末には、医者、同朋、茶道などの家々の系譜も収録されています。編纂期間が短かったため、各家から提出された資料を十分に比較・考証する時間がなく、提出された系図の内容がほぼそのまま反映されていると考えられています。そのため、各家によって記述の粗密が目立ち、後世の『寛政重修諸家譜』と比較すると正確性や客観性に欠ける部分があります。しかし、証拠となる古文書が残っている場合は、その写しが掲載されており、資料の元の状態を窺い知る上で貴重な情報源となっています。

注意すべき点

『寛永諸家系図伝』には、以下のような注意すべき点があります。

情報に偏りがある：徳川家に従い存続した家（庶流・一門を含む）からの提出資料をもとに編纂されているため、徳川家に敵対した家や没落した家に関する記述は不正確である可能性があります。また、名門であるほど記述に誇張が見られ、信憑性に欠ける部分があります。
事実の誇張や改竄：各家が自身の先祖を「いかに徳川家に忠節を尽くしたか」を誇大に記述している傾向があります。一方、旗本や大名として存続していない家は、貶められている記述も見られます。特に足利時代の「守護」や「官位」などの記述は、そのまま信用することはできません。
嫡流の偽装：交代寄合や大名として残った家が、実際にはその氏族の庶流であったにもかかわらず、嫡流であるかのように記述されている場合があります。

これらの点から、『寛永諸家系図伝』は、徳川家の視点から編纂されたものであり、客観的な史料として扱う際には注意が必要です。特に寛永以前の記述については、他の史料と照らし合わせながら慎重に検討する必要があります。

所蔵先

完成した原本は、将軍家に提出されたものと、日光東照宮に奉納されたものの2種類があります。将軍家提出本は和文体で江戸城紅葉山文庫に納められ、現在は国立公文書館に収蔵されています。日光東照宮奉納本は漢文体で、現在も日光東照宮に伝わっています。写本は、国立国会図書館、国立公文書館、宮内庁書陵部、東京国立博物館など、多くの機関に所蔵されています。

刊行本

『寛永諸家系図伝』は、以下の刊行本があります。

続群書類従完成会版（仮名本）：全15巻、索引2巻（1980年～1997年刊）
日光東照宮所蔵本（真名本）翻刻版：全7冊（1989年～日光東照宮刊）

また、国立公文書館所蔵本は1964年にマイクロフィルム化されており、上記の刊行本はこのフィルムからの翻刻となっています。

参考文献

豊田武『日本史小百科・家系』近藤出版、1983年。
丹羽基二「寛永諸家系図伝」（『日本の歴史書120選　歴史と旅・臨時増刊』秋田書店、1993年）pp210-211。

関連事項

寛政重修諸家譜
* 藩翰譜

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